月山秋色
 熊谷達也の小説「邂逅の森」に主人公が肘折温泉から月山を越える途中で吹雪に遭う場面がある。これを読んで、月山に登るときはこの道を通ろうと決めた。この夏、鳥海山と月山に登る予定であったが、一日悪天候で鳥海山に二度登ったりしたので、月山に登る時間がなくなった。
 それで、もう紅葉も綺麗だろうと10月中旬に出かけることにした。休暇は月山だけに登るには余るほどある。初日は肘折温泉で一泊してノンビリと登ろうと考えたが、あいにく週末に向かって天候が崩れてきそうだ。ノンビリしていると山頂で雨に遭いそうだ。肘折温泉一泊を諦めて、奮発して夜行寝台「日本海」で行くことにする。これに乗ると新庄から一番のバスで肘折温泉に入ることができ、その日のうちに念仏ヶ原まで行ける。

10/13
(木) バスは温泉街の狭い道路の直角のカーブを軒すれすれに曲がりながら、8時過ぎに終点に到着。鄙びた風情ではあるが、宿屋は多い。以前から一度泊りたいとは思っていたのだが、もうここで泊る機会はないだろうな。
 月山登山口までは4キロ足らずの林道歩きである。天候は薄曇りで歩きやすそうだ。温泉から林道を上ってゆくとソバ畑の拡がる丘陵にでる。振り返ると谷あいの温泉街が見えている。この辺りはまだ秋も始まったばかりの風情である。一時間ほどで登山口に着く。 幟が立っている。「月山卯歳御縁年」と書いてある。今年は月山にお参りすると特別に御利益があるようだ。何か良いことがあるかな? 標識に月山山頂まで17キロ、念仏ヶ原まで9キロとある。温泉からだと山頂まで20キロとなり、結構長い登山道である。
 道は緩やかな上り下りを繰り返しながら、念仏ヶ原へと続く。大森山の捲き道を過ぎた湿地帯で倒木にびっしりと生えたナメコを見つける。今夜のおかずにと少し頂く。1時過ぎ、赤沢川源流を渡る。ここで湯を湧かして、昼食とする。少しノンビリしよう。この辺りから、紅葉が素晴らしくなってくる。全山赤と黄色である。
 小岳(1225m)を過ぎて、坦々とした道を歩いてゆき茂みを出ると突如小屋の前に出る。3時半、念仏ヶ原避難小屋到着。大きくて立派な小屋だ。荷物を置いて、湿原を散歩する。ここから月山が見えるはずだが、雲の中だ。紅葉の湿原は言葉より写真を見てください。

 

 

 

 

 蕎麦畑と肘折温泉

 月山登山口

 登山道

 紅葉始まる

 

 

 

 

 倒木に生えたナメコ

 湯殿山の碑

 ナナカマド

 紅葉

 

 

 

 

 錦繍

 念仏ヶ原

 念仏ヶ原

 木道

 

 

 

 

 池塘

 ドライフラワー

 つつじ(?)の紅葉

 避難小屋


10/14
(金) 快晴。湿原に出ると、正面になだらかな山容の月山が目一杯に拡がる。山頂の小屋が小さく見える。丸い残月が山の斜面に掛かっている。まさに月山だ。
 朝霜で滑る木道を歩いて湿原を抜けると、谷に向かって150m程急降下する。立谷沢川を渡ると月山に向かっての約1,000mの登りとなる。紅葉の中、急登が続く。振り返ると、谷の向うに念仏ヶ原の湿原とその向うに葉山が見える。崖を越えると高原状となり、紅葉は終わり冬枯れの様子となる。正面に頂上小屋が大きく見えてきた。しかしまだ500mは登らねばならない。空気が澄んでいてすぐ傍にあるように見えるのだが。
 正午、山頂に到着。姥沢から登ってきたらしい登山客がチラホラといる。肘折温泉以来の人の姿である。頂上の小屋、月山神社などは全て閉じられていている。月山神社は東北地方ただ一つの官弊大社で社格が高いが、山の上で大して立派な社殿ではない。ちょっと拝んで、四方を眺める。北には弥陀ヶ原に続く稜線、その彼方に鳥海山が聳えている。北西には庄内平野が広がり、その向うは日本海。西には湯殿山に続く尾根が伸びており、その下に姥沢のリフトの上部が見える。あそこまでは1時間ぐらいかな? 朝日岳方面の山はよく分らない。
 さて、どちらに下ろうか? いつもの癖で、下山についてはよく考えていなかった。しかし、せっかく東北まで来て山中一泊ではもったいないではないか。南へ下る一番山道が長そうなコースということで本道寺へ下ることにする。今日は途中の清川行人小屋で泊ろう。小屋までは2時間少々だろうからと、ノンビリ歩く。胎内岩を過ぎると広々とした平原を下って行く。ここは大雪城といって雪のある季節には大雪原らしいが今は岩のゴロゴロとしたところである。トラロープを張って道しるべにしてくれている。これがないとルートファインディングが大変そうな場所だ。平原が終わると、紅葉の中の急降下となる。樹林帯の中に白い小屋が見える。もうすぐだ。本道寺道から分れて横がけに30分ほど歩くと、今朝渡った立谷沢川の源流に出る。清冽な流れだ。ここで水を汲んで少し上ると清川行人小屋だ。ビックリするほど大きい小屋で、100人程は泊まれそう。
 荷物を置いて、傍らの小ピークに登る。絶景である。日が翳るまで辺りを散策する。
 夜中、天上を何かがヨタヨタと歩く音がする。ホーホーと鳴き声がするので、フクロウの類が巣くっているようだ。

 

 

 

 

 

 月山残月

 朝霜の念仏ヶ原

 月山山頂を望む

 念仏ヶ原秋色

 沢へ下る急坂

 

 

 

 

 

立谷沢川

 秋天

 念仏ヶ原と葉山

 山腹秋色

 頂上が近づく

 

 

 

 

 

 湯殿山への尾根

 鳥海山を望む

 山頂の月山神社

 胎内岩

 雪の消えた大雪城

 

 

 

 

 

 紅葉の清川行人小屋

 小屋付近の紅葉

 小ピークからの景色

 小ピークからの景色

 小屋内部


10/15
(土) 昨夜はイヤに生暖かいと思ったら、雨である。風はなく、小雨がシトシトと降っている。これくらいの雨なら歩くのも苦にならなし、行程は大体下り続きで、4、5時間ほどだろう。
 雨にけぶる紅葉の道を辿る。何百年もの間、参詣者が通った古道である。道は広く緩やかで歩きやすい。路傍にチョコンとうずくまった小さな女性の石像がある。地図には姥像とある。これは三途の川の姥なのだろうかな? 
 11時前、本道寺着。次のバスまで2時間近くある。無人の湯殿山神社や下の月岡、本道寺の集落を散歩して時間をつぶす。これくらいの時間をつぶすのは全く苦にならない。 1時、間沢着。前日山頂から予約した山菜料理の「出羽屋」へ入る。本来はここで一泊の予定であったが、日程が一日早まり土曜では泊ることは出来ず、昼食となった。
 昔、車のない時代「出羽屋」は月山参詣の客を泊める行者宿だったらしいが、今はそういう客はいなくなり、現在のような旅館となったとのことだ。
 十数年前、大阪の書店で「出羽屋の山菜料理」という本を買った。それを読んで、是非行ってみたいと思うようになり、以前日本やまんなか縦断サイクリングの途中に立ち寄って昼食を食べた。その時は5月だったので、次は秋に来てキノコ料理を食べたいと思った。 あれから12年、出羽屋に着いてみると、建て増しされて以前の倍の大きさになっている。個室に通されて、メニューを見るといろいろなランクがあるが、基本的には品数の多さによるらしい。昼なのでまんなかあたりを注文して、アケビの焼き物を一品追加する。 出てきたのが写真である。これ以外に鮎の塩焼き、コウタケご飯、キノコの味噌汁が付いていた。中央の芋煮の椀は鍋で出てきてもう一杯分ある。見ただけで腹一杯になる。昼間に酒は飲まないのだが、今日は特別で一本注文する。左上の小椀はマタタビ酒、コクワ酒などのアルコールだ。
 みんな珍しくて旨かった。食べた食べた。どうせ低カロリーだろうから安心して食べた。何にも残さず食べきった。腹が苦しい。キノコは何種類あったやら。
 その夜は寒河江のホテルで泊ったのだが、夕食と朝食は抜いた。

 

 

 

 

 

 雨にけぶる山道

 紅葉のトンネル

 落葉を踏んでゆく

 路傍の紅葉

 路傍の紅葉

 

 

 

 

 

 姥像

 本道寺月山神社

月山神社の額

 出羽屋の山菜料理

 アケビの包み焼き



10/16
(日) 午前中は寒河江の慈恩寺を見物する。山形県の有名な寺といえば、山寺ぐらいしか知らなかったが、ここはそれ以上に由緒ある寺らしい。国の重文の仏像が30体あるとのこと。十二神将像は小さいながら素晴らしいと感じた。
 裏山に登って、寒河江市街を展望したあと、近くの「東光坊」という蕎麦屋に入る。夜昼抜いていたのでさすがに腹が減った。板蕎麦というのを注文すると、大阪なら2人前はある大盛り。それに付け合わせの品が付いて、これまた腹一杯となった。なかなか旨い蕎麦だった。
 あとは、山形まで出て土産を買い、駅前の飲み屋でまたアケビ焼きなどで一杯やって、夜行バスで帰阪した。長いバスの旅は老体には大分こたえる。もう二度と乗るまい。

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