高賀三山と高賀六社巡り
(2011.11)

美濃の長良川と板取川に挟まれた高賀山山域は平安時代からの地方山岳信仰の聖地として崇められていた。円空さんはこの地の生まれと伝えられ、円空仏も多く残っているようである。この地に高賀六社巡りといって、高賀山麓の六つの神社を一日で廻るのが流行していたが、現在は途絶えルートも分からなくなっている。

そこで、四国の田舎の神主をご先祖に持つ小生は大して神様を信仰しているわけではないが、神社にはちょっと関心があり、六社巡りをやってみたくなった。ついでに、高賀三山と呼ばれる高賀山、今淵ヶ岳、瓢(ふくべ)ヶ岳を廻ってみよう。という訳で2泊3日の予定で出かけた。

 

11月26日(土)

 早朝、長良川鉄道の美並苅安駅近くに車を置いて、粥川沿いに一番目の星の宮を目指す。粥川は小さいながら清冽な流れであり、ウナギの生息地として天然記念物に指定されている。といっても特別なウナギが棲んでいるわけではなく、この谷の人たちは古来ウナギを神の使いと崇め、決して獲ったり食べたりしないそうである。昔は昼間でもお釜などを洗っているとウナギが大量に群がってきたらしいが、今は流れを覗き込んでもウナギの姿を見る
ことはない。


粥川の清流                                     ウナギの看板

 谷合から最後に上る予定の瓢ヶ岳が見える。
  

 4キロほど歩いて星の宮。山の中の神社にしては大きくて立派だが、どこの神社もそう変わりはない。ご利益を期待しているわけではないが、今回は特別なのでお賽銭をはずんで、上流に向かう。伝説の地である矢納ヶ淵はエメラルドグリーンの水が素晴らしい。


星の宮                                       矢納ヶ淵

星の宮から八王子峠を越えて舗装道路を歩くこと7キロ、二番目の那比新宮に着く。ここも山間にあるにしては素晴らしく立派なお社である。今も信仰の対象として崇められているのだろう。

 
那比新宮への道                                                         那比新宮

 さて次は那比本宮である。小さな尾根を越えるだけであるが、地形図に道はない。旧道が残っているとしたら谷沿いかと、谷に入るが行き詰まり尾根に這い上がる。わずか数十メートルだが道のない急斜面は辛い。尾根に上がると刈り開きが続いている。ヤレヤレ。

 ピークから百メートルちょっと尾根を下ると林道に出、それを辿ると那比本宮だ。社のあたりは人気がなくひっそりとしている。昔は大きな神社だったが、山崩れで全て埋もれたとの伝説が残っている。神錆びた場所である。

 
那比本宮への山越え                                                    那比本宮参道

 さらに林道を詰めると、行き詰まりから谷沿いへと導くテープがありそれを辿るもすぐ道が途絶える。谷沿いに詰めるのはリスクが高そうなので、またまた尾根に取りつく。ちょっとしたブッシュ、岩のへつりをやって登ってゆく。年寄りにはきつい登りで腰がふらつきヒヤリとする。ザックの脇からペットボトルが崖下へ落下する。身代わりになってくれたか。やがて標高1,000mあたりに林道が見えてきた。山の中の林道もなかなか有難いものではないかという気になる。前日に降った雪が少し残っている。やがて横がけに林道を歩くと御坂峠。高賀山(1224m)をピストンする。頂上は一等三角点だけあって眺望は素晴らしい。白銀の北アルプス、白山を眺める。やがて夕日が御嶽山をピンクに染める。御坂峠にテントを張る。

 
白山遠望                                                              高賀山山頂
 
夕陽の染まる御嶽山                                                          日没

11月27日(日)

 6時、まだ暗いがヘッドランプをつけて出発する。高賀神社までは一気の下りである。下るにつれて明るくなって、名残りの紅葉が目をひく。やがて、4番目の高賀神社。

 併設の円空仏の展示館の開館まではまだ時間がある。待ってはいられない。

 
下る途中の岩屋                                                    ドウダンツツジ
 
藤原高光のさるとらへび退治の像                                                    高賀山を振り返る          

 南の山へと上ってゆく舗装道路を辿る。適当なところで尾根に取りつく。稜線まで100m程か。

立ち木や木の根にすがりながら登ってゆくと、前方でパタパタと羽ばたきのような音がする。近づいてみると山鳥の尾が岩陰から覗いている。写真を撮ろうとカメラを出して近づくともういない。離れたところでまた羽ばたいている。これは雛のいる巣から離れた場所へと誘導している擬傷行動だろう。

尾根に出て反対側へとかすかな踏み跡を辿り下ってゆく。やがて林道の終点に出る。少し行くと今淵ヶ岳の登山口。荷物を置いて滝神社に行く。山の中のまったく無人の場所にある神社だ。近くの小さな滝がご神体なのかな? 

 
滝宮への山越え                                                     滝宮へと下る
 
滝宮の参道                                                          権現滝

 昼食後、2時間かけて今淵ヶ岳山頂(1048m)にたどり着く。なんということのない山である。ここから矢坪岳まで1時間かけて縦走。ふみ跡程度であるが、なだらかな尾根で何の苦労もない。3時、矢坪岳頂上(873m)。しばらく休んで下り出す。東尾根を下って、片知側への尾根を下りたかったが、この時間ではやばい。西の登山道を下り始めるが、登山道を外れて尾根を辿り続ける。途中でおかしいと気が付いたがこのままでも下れるだろうと高をくくる。送電線巡視路に出る直前の平らな場所で時間切れ。テントを張る。スリーシーズンの寝袋では暑いぐらいの夜だ。

 
今淵ヶ岳山頂                                                      矢坪岳山頂 

11月28日(月)

 明日は朝から仕事なので今日中に帰らなければならない。そのためには片知山登山口を10時には登り始めなければいけないだろうと目標を定める。

 5時半、出発。幸い送電線巡視路は歩きやすくはかどる。7時には下山。最後の金峰神社へと急ぐ。集落の中のなんということのない神社である。ちょっと拝んで、片知山登山口の口板山に向かう。9時過ぎ、口板山。谷沿いの道を尾根にある岩屋観音へと上ってゆく。路傍には観音の小さな石像が置かれている。アルカイックな風情のある石仏だ。岩屋観音から少し上ると片知山(966m)。急いで最後のピーク、瓢ヶ岳へと尾根を辿る。2時半、山頂(1,162m)。急がないとやばいぞ。地形図にはない星の宮の奥へと下る道を辿る。1時間で中腹の林道に出る。登山道は渓谷沿いに続く。しばらく下ると崖で道がわからなくなった。あと500m程なのだが。この崖を下るらしいが、先には暗いゴルジェが待ち構えている。もう4時だ。時間があるならばゆっくりと道が探せるが、ここで暗くなるのは怖い。遠回りだが安全パイということで先ほどの林道を行こう。ひどく荒れた林道で車が通ることはもう出来ないが歩くには問題ない。暗くなって2日前通った道路に出る。ザックを置いて、車を置いたところまで7キロほどの道を歩く。途中、通りかかった車に手を挙げるが、全く無視される。ザックを持っていないと、浮浪者同然の恰好だから止まってっはくれないのは当たり前か。私でも止まらないな。 

 
片知山を見上げる                                                    金峰神社
 
口板山の道祖神                                                      登山道の千手観音
  
岩屋観音堂                         名残の黄葉                                            名残の黄葉                     
 
片知山山頂                                                            瓢ヶ岳
 
瓢ヶ岳山頂にて                                                            高賀山
 
瓢ヶ岳からの下山道                                                        荒れた林道

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