穂高岳・涸沢カールの秋景(2012.10)
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槍・穂高は老後の楽しみにと取っておいたのだが、3年前槍ヶ岳に登り事故で左眼が失明状態となりだいぶ苦労した。それで次に穂高に行くと今度は命を落とすのではないかとちょっとビビッていた。しかし、生涯穂高に登ったことがないというのも岳人のはしくれとして恥ずかしいではないか。もう立派な老後であるし、これ以上延ばすと本当に登れなくなるかもしれない。
幸いこの秋、6連休が取れることとなり、この機会に穂高から大切戸を通って槍、更に体力が許せば足を伸ばして読売新道から黒部ダムへ下ろうという大計画を立てた。
10月4日(木)
5時半、夜行バス「さわやか信州号」は上高地バスターミナルに到着する。
河童橋を渡りしばらく行くと岳沢登山口。このあたりの沢の流れも秋の気配を見せて透き通るように美しい。岳沢小屋まではなだらかな登りで快調に進んでゆく。数年前雪崩で破壊された小屋も今は新しくなっている。45年ほど前の秋ここまで登ってきたのだが、上は30センチもの積雪であきらめて下山したことが思い出される。
さて、小屋を過ぎると重太郎新道の登りにかかる。前穂の頂上までだと900mほどの急登だ。自分で歩幅の調節ができない岩の高いステップの連続、鎖にすがっての登りで短足の小生はたちまち息が上がってくる。だいぶ登ったつもりだが見下ろすと岳沢小屋がすぐ下に見える。それでも隣の明神岳のピークがだんだん近づいてくる。他の登山者よりだいぶ遅れてやっと紀美子平に到着する。ここに荷物を置いて前穂頂上往復。これがまた楽ではない。
頂上からの視界は雲に阻まれてほとんど効かない。ただ眼下の涸沢カールはガスが切れてよく見える。紅葉は最高潮のようだ。奥又白池も光って見える。
岳沢入り口の池塘 | 岳沢の登り | 乗鞍岳遠望 | 穂高稜線が見えてきた |
重太郎新道から見える雪渓 | 重太郎新道のはしご | 眼下の岳沢小屋 | 前穂から明神岳に続く尾根 |
紀美子平 | 前穂への急登 | 眼下の涸沢カール | 奥又白池と梓川 |
誰もいなくなった吊尾根を一人トボトボと辿る。雨が降ってきた。雨具を着けるのにまた時間がかかる。奥穂頂上は小雨の中、そそくさと通り過ぎる。断崖の下に穂高岳山荘が見える。あと少しだ。
5時、到着。美人の若い小屋主に、「体力を考えて、山行計画を立ててください」と意見される。ごもっともである。
隣の部屋が詰まったので次の部屋に入る。今夜はこの部屋を一人で占領かと思っていると、7時過ぎ、白髪の男性が入ってきた。西穂山荘を4時半に出発して縦走してきたとのこと。70歳とのこと。暗闇の中、小屋の上の断崖を下るとは、怖いことをする。
10月5日(金)
深いガスの中、北穂に向けて出発する。
涸沢岳の下り。凍るように冷たい濡れた鎖に縋りながら、崖を下ってゆく。下りは足場がよく見えない。転落すればもちろん命はない。足でステップを探りながら、鎖に命を預けて下ってゆく。怖いところだ。ここでこんなに怖いのなら、大切戸はもっと怖いかも。槍への縦走の元気がだいぶ萎えてきた。
北穂への稜線最低コルあたりでガスが切れて、青空が見えてきた。涸沢圏谷の素晴らしい紅葉が眼下に広がる。これを見逃すと一生後悔しそう、一期一会だ。ということで殺風景な大キレットは次回にして、涸沢に下ることにする。その前に北穂をピストンしよう。北穂頂上からの北アルプスの展望は素晴らしい。真北に槍ヶ岳とそれに続く稜線。大キレットはだいぶ切れ込んでいる。南岳直下の断崖の登りはかなりきつそう。
のんびりと涸沢へと下ってゆくと色づいたナナカマドの群落が多くなる。黄色に近い葉から赤黒い葉まで、いろいろな色に染まっている。ダケカンバの黄色はもう一つの感じである。昼過ぎ、涸沢小屋の前に出る。宿泊の申し込みをすると、今日は一畳3人となるとのこと。そんなに込みそうな気配ではないのに。結局、夜になっても宿泊客は増えず、一畳3人で50人ほど入る部屋を10人でゆっくりと眠った。
散歩に出る。カールの底から見上げると、左から前穂・吊尾根・奥穂・涸沢岳・北穂に半円状に囲まれ、巨大な古代ギリシャの大劇場に立っているような気になる。以前、トルコを旅行したときに立ったアスクレピオンの劇場が思い出される。色とりどりのテントもテントサイトを埋め尽くすにはほど遠い状態だ。夕食前まで紅葉の中を彷徨う。
朝霧の山稜 |
涸沢岳の登降路 |
最低コルから涸沢を見下ろす |
奥穂を振り返る |
北穂の登り |
北穂から槍への縦走路 |
涸沢への下り |
涸沢への下り(奥穂が見える) |
屏風の頭(手前)と蝶ヶ岳(奥) |
涸沢ヒュッテとテントサイト |
涸沢小屋 |
涸沢散策(1) |
涸沢散策(2) |
涸沢散策(3) |
涸沢散策(4) |
涸沢小屋からのテントサイト夜景 |
10月6日(土)
今日も晴天だ。朝から2時間ほど、涸沢の景色をいとおしむ。奥穂へ登るザイテングラードを少し辿って展望を楽しむ。次に来るときはパノラマコースを通り、屏風の頭に行ってみよう。
横尾へと下りだす。下からやってくる無数の登山客。大行列だ。上り優先などと言って待っていてはいつまで経っても歩き出せない。行列にどんどん突っ込んでゆく。道が広いので何とかかわせる。千人以上すれ違っただろう。今日の涸沢は大混雑だ。まさに一畳3人の宿泊だ。
横尾の広場も人で一杯だ。それにしてもこういう超人気の山では山ガールなる華麗な生き物が群れている。それもオスとのつがいが多い。我々が普段行く関西のローカルな山には棲息していない。
このまま、上高地へ下山するのはいささか物足りない。槍ヶ岳方面はどの山小屋も一杯だろう。天狗池にも心が動くが、今から南岳までは一寸きつそう。というわけで比較的楽に登れて、空いていそうな蝶ヶ岳に登ることにする。
樹林帯を抜けて常念岳から続く稜線に出ると、穂高槍連峰が正面に聳え立つ。素晴らしい眺めだ。やっぱり来て好かった。蝶ヶ岳山荘も適当に空いていて、快適に過ごせそうだ。
涸沢岳を見上げる |
常念岳遠望 |
ナナカマドの実 |
涸沢に別れを告げる |
本谷橋 |
ツリバナ |
蝶ヶ岳稜線よりの穂高連峰 |
蝶ヶ岳稜線を行く |
10月7日(日)
昨夜、雪が降ったようだ。槍穂高も初冠雪のようで、白く薄化粧した峰々が朝日に輝いている。頂上に雲がかかっているのが残念だ。
今日の天気は下り坂のようだが、少なくとも午前中は持ちそうだ。初めの予定では最短距離の長塀尾根を下って上高地へ帰る予定だったが、ザックを担いだとたん気が変わった。少し長いが大滝山、徳本峠経由にしよう。少し長くなるが初めてのコースである。
大滝山あたりまでは広くなだらかな尾根の灌木の中の道を行く。池塘に映える紅葉が秋の深まりを感じさせる。大滝小屋は8月下旬に閉められており、人影もなくひっそりとしている。
この辺りから徳本峠までは長い長い樹林帯の中の道を行く。行きかった人は10人ほどだったろうか。キノコが一杯生えている。昔なら大喜びで採ったであろうスギヒラタケもそこら中に生えている。
いい加減うんざりした頃、やっと徳本峠に到着。峠の小屋は昔風の趣のある山小屋だ。今時の若い登山者は喜ばないだろうが。
峠は素通りして、一路上高地へと急ぐ。大混雑の上高地バスターミナルでバスの予約が取れるか心配だったが、幸い1時間ほど先の新島々行きが取れた。結局、大阪まで風呂にも入れず、着替えもできずで、臭いまま周りに大迷惑を掛けながらの帰宅となった。
初冠雪の穂高槍連峰 |
縦走路晩秋(1) |
縦走路晩秋(2) |
縦走路晩秋(3) |
縦走路晩秋(4) |
縦走路晩秋(6) |
大滝小屋 |
縦走路は樹林帯へと入る |
樹林帯の縦走路 |
スギヒラタケ |
徳本峠小屋 |
徳本峠を下る |