ケルトの向かい風(アイルランドサイクリング紀行)其の三
3/24 早朝、朝食なしで出発。今日も青空が見える。今日の目的地はキラーニー(Killarney)国立公園だ。昼前には着くだろう。ディングル半島から東へと内陸部へ走る。
 途中のパン屋で焼きたてのソーセージ入りのパンと紅茶の朝食をとる。
 路傍の邸宅で満開の桜を見る。アイルランドでは桜が庭園樹として人気があるのか、よく見かける。この桜は一見花桃かと思ったが樹皮は桜だ。しばらく見とれる。
 アレッ、こんな田舎に日本の製薬企業がある。

   
日の出と共に出発(拡大写真へ) 対岸遙かに見えるキラーニー山地(拡大写真へ)  はなやかな墓地(拡大写真へ) 
 
満開の桜(拡大写真へ)  湾を廻ってディングル半島を振り返る(拡大写真へ)  日本の製薬会社の門 


 キラーニーに近づくにつれて、サイクリストが多くなる。みんなノロノロ走る私を追い抜いて行く。
 昼前、キラーニー到着。アイルランド最大のリゾート地だけあって小さいながら賑やかで、瀟洒な店やホテルが軒を連ねている。インフォメーシャンでキャンプ場を教えてもらい、探しながら行くもだいぶ行き過ぎ、引き返してやっと見つけた。広い芝生のキャンプ場にはキャンピングカーが2台止まっているだけ。早速テントを張って、荷物を放り込む。
 今日は快晴となり、暑いくらいの気候である。
 早速、国立公園一周に向かう。下の湖の遊歩道から中の湖、上の湖と国道を走る。美しい湖の景色だ。この国道はケリー周遊路でケリー半島に向かう。ケリー半島にも行ってみたいが、これは今回に日程では無理だろう。途中からロード・ブランドンズ・コテージへの遊歩道を走る。漕いだり押したりして、コテージに着く。フルーツケーキでエネルギーを補給する。
 少し上るとダンロー渓谷に下る峠に出る。数名のハイカーに出会う。ここはパープル山への登山口で尾根伝いに2時間ほどで標高800mほどの頂上に行けるとのこと。展望は素晴らしいらしい。見上げると木一本もない岩山だ。
 ダンロー渓谷を見下ろすと切り立った岸壁の裂け目を谷川が流れ下っている。山の少ないアイルランドでは珍しい景色なのだろう。パッチワークのように補修を積み重ね、所々穴の開いた細い道を下って行く。ママチャリで漕ぎ上がってくるおばちゃんがいる。すごい馬力だ。

 国立公園の遊歩道(拡大写真へ) 下の湖とパープル山 (拡大写真へ)  中の湖(拡大写真へ)
 上の湖(拡大写真へ) ロード・ブランドン・コテージへの道(拡大写真へ)  ダンロー渓谷(拡大写真へ) 


 午後遅く、キラーニーに帰り着くと、後輪のタイヤは表面のゴムがボロボロに剥げている。町の自転車屋でタイヤ交換してもらう。
 夕食は日本から持参のアルファ米とこちらで買った野菜スープの缶詰。食後、表通りのパブでエールを一杯。
 夜中起きると満天の星。明日も晴れるぞ。

3/25 5時半、起床。例のごとく雑炊を作るが、味付けにこちらのスーパーで買ったインスタントのクリームスープを入れるとリゾットになった。これもなかなかいけるではないか。
 出発時、GPSの時刻を見るともう8時だ。携帯の時刻も同じ。アレッと腕時計でチェックすると7時。どうやら、何日か前からサマータイムになっていたらしい。
 キラーニーにはまだまだ見所もあるだろうが、今回は走りがメインだ。全部見尽くす必要はない。次の目的地はダブリン近郊のグレンダロッホの予定だったが、途中のキルケニー(Kilkenny)も見所の多い古い町らしい。ここも見なくては。
 キラーニーから東にあるマロー(Mallow)に向かう。雲一つない快晴だ。内陸部に入って来たのでまた牧場風景が続くが、このあたりは畑も多くなった。広い菜の花畑が花盛りだ。掘り起こしてある畑はジャガイモ畑かな? 麦の新芽も伸びている。
 2時、マロー。昼食は中華料理、チキンチャウメン。12ユーロ。この焼きそばは日本では500円でも売れないだろうな。
 次はミッチェルズタウン(Mitchelstown)に向かう。相変わらずのんびりとした農村風景。途中止まって地図を見ていると、一旦通り過ぎた家族連れの車が引き返してきて、何か困ったことがあるのかと聞く。何も困ってはいないが、仕方がないのでミッチェルズタウンまではどれくらいだと尋ねる。あと15km位だと教えて、さっと車を回して去って行った。この国の人は全く親切だ。何かを尋ねても本当に丁寧に教えてくれる。
 町で最初に見かけたB&Bに宿をとる。朝食は9時半からだというのでここも朝食抜きで泊まる。いくらだと聞くと、「トフティ」という。キョトンとしていると、スリーオーと言い直す。強烈になまった英語だ。あるいはゲール語なのかな? 隣のテーブルで大きな声で会話をしている老人の言葉も英語とは思われない。
 今日は爽やかな一日だった。多くのサイクリストを見かけた。日曜日なのだ。
 夕食はB&Bのレストランで。サーロインステーキを注文する。ミディアム・レアと頼んだのに、十分なウェル・ダンで、表面は焦げていて、かみ切れないほど硬い。今までで最低の夕食か。

 キラーニー駅 路傍風景(拡大写真へ) 菜の花畑(拡大写真へ) 
路傍の満開の桜(拡大写真へ)  八百屋の店先−タマネギ?   ミッチェルズ・タウンのB&B


3/26 今日も快晴。雲一つない。風も穏やかである。
 キルケニー(Kilkenny)を目指す。車の通行量が少なく、気持ちよく走れる。
 アイルランドの国道はだいたい速度制限が100km/hで、はじめの頃はずいぶん怖い思いをしたが慣れてしまった。それと、後ろから来た車は対向車があるときは自転車でも決して追い抜いて行かない。自転車のあとをゆっくりと付いて走っている。人口密度の薄い国なので、対向車がひっきりなしな走っているということはなくすぐに途切れる。
 時々、カメラのマークの道路標識がある。スピード違反取り締まり区間のようだ。といっても、オービスのようなものがあるのではなく、不定期にねずみ取りが行われるようだ。
 クロンメル(Clonmel)の町に着く。なかなか大きな町である。教会を覗く。内装は新しいようだが、美しい。
 4時、キルケニーに到着。町の入り口に寺院のような古い立派な建物がある。カレッジと書いてある。大学かなと思うと高校生ぐらい男子がぞろぞろ出てきた。聞いてみると高等学校のようだ。
 インフォメーションにてホテルを紹介してもらう。ちょっと贅沢して、69ユーロ。聖カニス大聖堂のすぐ下だ。
 町を散歩して、大聖堂、キルケニー城の周囲を巡る。
 夕食はガイドブックにあったZuniという店による。ラムのローストを注文する。2人前は十分ある量だが、ジューシーでとても美味しかった。今回の旅でまず最高の食事だったか。

路傍風景(拡大写真へ)  路傍の古城(拡大写真へ)  クロンメル近くの川(拡大写真へ) 
速度制限100kmの道路  この道で80kmは無理だろう  速度取り締まり区間 
 
クロンメルの教会(拡大写真へ)   キルケニーの高校(拡大写真へ) 聖カニス大聖堂(拡大写真へ) 
 
 キルケニー市街(拡大写真へ)  キルケニーを流れる川(拡大写真へ)  キルケニー城(拡大写真へ)



3/27 朝、アイリッシュ・フル・ブレックファストを気分が悪くなるほど食べる。
 町の見物に出かける。キルケニーは南北のキルケニー城と聖カニス大聖堂の間にある徒歩十五分ほどの小さな町で、中世の古都としての雰囲気を残していて美しい。観光地として有名らしい。
 まず、キルケニー城。イギリス領だった時代の公爵か侯爵の居城だったらしい。中庭から見た館の姿は大変美しい。中に入ると室内の装飾はまあ田舎にしては立派だという程度か。ただ、肖像画がズラッと展示されている大部屋の天井の梁が素晴らしかった。
 次いで、ロス・ハウス(Rothe House)。17世紀の町長だった商人の住宅で、三つの建屋からなる大きな家で裕福な市民の生活が窺えて興味深かった。後ろの庭園も夏には素晴らしいのだろうが、早春の今はほとんど緑がなく残念であった。
 聖カニス大聖堂。教会の内部はどこも同じ、キリスト教徒でない私にとっては大してありがたいとも思えない。ラウンドタワー。30m位はあるのかな? 見張り台だったらしい。てっぺんからは町全体、郊外が見渡せて気持ちがいい。今日も快晴だ。
 1時、出発。カーロウ(Carlow)を経由して、ボルティングラス(Baltinglass)へ。風景を楽しみながらのんびりと走る。
 ボルティングラス着。ちょっと殺風景な感じのする町だ。B&Bは一軒しかないらしい。キルケニーのインフォメーションで調べてもらったところ、この先にはB&Bがあるかどうかわからないとのこと。町の中央にあるレストラン経営のB&Bに宿をとる。
 シャワーを浴びるがぬるま湯しか出ない。何度か文句を言うが、これ以上に温度は上がらないらしい。これで59ユーロも取られた。今までで最高の値段と最低のアコモデーションだ。

ロス・ハウス 居間  ロス・ハウス 台所 ロス・ハウス 中庭 奥は井戸 
ロス・ハウス 挽き臼  大聖堂 塔から市街の眺望(拡大写真へ)  大聖堂 塔から郊外を眺める(拡大写真へ) 
運河の閘門(拡大写真へ)  教会の廃墟(拡大写真へ)  ボルティングラスのB&B 


 
3/28 今日も雲一つない快晴だ。国道を20kmほど北上してハリウッド(Hollywood)の村に着く。ここから東、グレンダロッホ(Glendalough)へ向かう県道に入る。山越えの道だ。いきなりの急坂。降りて押そうかと思うほどだったが、何とか耐え切れた。一つ峠を越えると、あとは樹林帯の中を徐々に高度を上げて行く。アイルランドで初めて見る本格的な森林だ。この辺りでキャンプしてのんびりしたい気分だ。演習中(?)の装甲車が走っている。ロードレーサーに乗ったサイクリストがどんどん追い抜いて行く。もうダブリンが近いので日帰りのサイクリストだろう。 ウィックロウ峠(Wicklow Gap)、標高470mに着く。今回の旅の最高到達点だ。展望台に立つ。上ってきた渓谷と、これから下る渓谷がはっきりと見渡せる。一面、ヒースの原だが、今は花期ではなく全くの枯れ木状態だ。30年ほど前、スコットランドをドライブしたときのことを思い出す。あのときは夏で山々はヒースの花で覆われていた。
 一下りすると、グレンダロッホ。ここは6世紀に開かれた初期キリスト教の聖地で、教会の遺跡群が残っている。また、谷には二つの湖があり風光明媚な場所だ。ダブリン郊外の行楽地といった感じでピクニックに来ている人々、観光バスの客であふれている。
 教会遺跡を見物し、二つの湖を散策して、芝生の広場でしばらく昼寝をする。まわりを子供たちが駆け回る。屋台のアイスクリームを食べるが、気のせいかこれもちょっと粉っぽい。
 昨日のB&Bで懲りたので、今日はキャンプ場で泊まろう。インフォメーションで聞くと、ダブリンへの途中ラウンドウッド(Roundwood)というところにいいキャンプ場があるとのこと。ところがラウンドウッドに着いてみると、キャンプ場はイースターまで閉鎖中、扉はしっかり閉じられてもぐり込むことはできない。町の下のダム湖畔の遊歩道でテントを張るのがいいと何人かの女性に教えられる。道路から遊歩道へ入るには石塀を階段で乗り越えるようになっている。荷物を下ろして自転車を担いで乗り越える。なるほど、最高のキャンプサイトだ。テントを張って、のんびりとくつろぐ。食料とビールは町のスーパーで買ってきてある。 
 牧場に沈む夕日が美しい。

 
訓練中の軍隊  路上の犠牲  ウィックロー峠への道から(拡大写真へ) 
森林地帯を行く(拡大写真へ)  ウィックロー峠の展望(拡大写真へ) グレンダロッホの遺跡 (拡大写真へ)
グレンダロッホの教会 (拡大写真へ) 早春のグレンダロッホ湖畔 (拡大写真へ 教会遺跡 (拡大写真へ)
アッパーレイク (拡大写真へ) 芝の広場で遊ぶ子供 ラウンドウッド ダム湖畔でキャンプ 



3/29 北上して、ダブリンへ。アップダウンの激しい静かな郊外の住宅街を抜けて行く。エニスケリー(Enniskerry)。樹木の茂る広壮な屋敷が続き、中心部の町も瀟洒である。
 ダブリン市街に入りひたすら北を目指して走って行くと、中心部に出た。町には自転車が一杯走っている。かなり大胆に走っていて、車のほうが譲ってくれている感じである。乗り捨て可能なレンタル自転車のシステムもあり、よく利用されているようだ。
 中心部のホテルに宿をとり、空荷の自転車で市内見物に出かける。
 まず、国立考古学博物館。黄金細工のコレクションに圧倒される。アイルランドは金の産出国だったのだ。バイキングの巨大な骨格。2mはあるんじゃないかな。大腿骨の大きさにはびっくりする。そのほか、ここには興味深いものがたくさんある。
 No.29。これは番地らしいが、18、9世紀の裕福な市民の住宅をそのまま博物館にしているもので、当時の生活が窺われて面白い。
 夜は、テンブル・バーという繁華街まで20分ほど歩く。ダブリンは賑やかだが、コンパクトで市内は歩いて見物できる。夕食にはアイリッシュ・シチュー。不味くはないが、うちの嫁はんのシチューのほうが旨い。

湖畔の夜明け (拡大写真へ)  ダブリン郊外 エニスケリー(拡大写真へ) ダブリン市内を走る自転車 
レンタル自転車置き場  国立考古学博物館の宝物 (拡大写真へ) ブローチ(有名なタラのブローチは別) 
 
十字架  大きな木製の車輪 (拡大写真へ) テンプル・バー 



3/30 今日がアイルランド最後の日だ。ダブリン市内見物。
 まず、トリニティ・カレッジ構内を散歩。古い、由緒正しい大学の雰囲気はまことに結構である。ここには「ケルズの書」というアイルランド随一の国宝とされる聖書が収められているが、私が見ても猫に小判。昔、聖書の写本は大英博物館でいっぱい見た。クライスト・チャーチと聖パトリック大聖堂。教会ももう見飽きた。どこの教会も大同小異である。英・独・仏の息をのむような壮大なものはない。やはり、アイルランドはヨーロッパの片田舎である。都市に見るべきものは少ない。 
 ダブリン城。次の見学ツアーは2時からだという。とたんに、見る気が失せた。これもたいしたことはないだろう。自然史博物館を覗いてみる。ムースの巨大な骨格など剥製ばかりだがなかなか興味深い。
 あとはお土産を買わなくては。嫁はんからアイリッシュリネン製品をできるだけ買ってこいといわれているが、まだ自転車に乗って空港まで行かねばならない。積める量は知れている。
 雲行きが怪しくなってきた。少し早いが、荷物をまとめて空港へ向かう。一時預かり所で段ボールの箱を返してもらい、自転車を分解して詰める。よく走ってくれた。
 最初の夜泊まった空港近くのホテルで最後の夜を過ごす。

トリニティ・カレッジ (拡大写真へ) クライストチャーチ内部の展示 (拡大写真へ) 聖パトリック大聖堂 (拡大写真へ)
観光バス  自然史博物館 カワウソ (拡大写真へ) ノミとダニの巨大な模型 (拡大写真へ)



3/31 朝、エア・リンガスのカウンターへ自転車の箱を持って行くと何も言わず超過料金なしで積んでくれた。空港の店でお土産の買い足し。
 アムステルダムでまたお土産の買い足し。重くて自分用の酒を買う元気はなかった。
 

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