八ヶ岳縦走(2013/08/01 -05)

 若いときから八ヶ岳は東京の人の山という感じがしていて、あまり登ろうという気がせず、足を踏み入れたことが無かった。この冬、仲間に誘われて初めて蓼科山と北横岳に登った。そのとき眺めた南八ヶ岳の山々は素晴らしく、やはり一生に一度は登るべきだと思った。
 この七月で満七十歳となったので、古稀記念登山として八ヶ岳縦走をやることにした。多分二度と来ることはないだろうから、できるだけ全部登ってしまおうと一番南の編笠山から北の端の蓼科山までの縦走をやることにした。この山系は山小屋が一杯有るので、軽装で済む。

8月1日(木) 前夜、塩尻駅前のホテルで泊まり、一番の列車で小淵沢に向かう。あいにくの雨である。天気予報では晴れだったのに。小淵沢駅で蕎麦を一杯食べて、タクシーで観音平に向かう。
 7時半、雨の中観音平(1560m)を出発。ここから八ヶ岳一番目のピーク、編笠山までは尾根伝いに高度差900mちょっとの直登である。雨具で蒸れる上に、腹が渋ってすこぶる調子が悪い。雲海辺りから小降りになってきて、押手川では完全に雨はやみ薄日が差してきた。腹の方は3回ほど森の中に駆け込み、空っぽになってやっと治まってくれたようだ。山頂近くになると、苦手な岩のゴロゴロ道が続く。ハクサンシャクナゲの白い花が僅かに疲れた身を慰めてくれる。
 12時、やっと編笠山山頂に着く。青年小屋までは短い下りだが、一番苦手な岩のゴロゴロ道の下りだ。片眼が不自由になってからは、微妙な遠近感が判らなくなって足の置き場が不安定となり、大幅に時間を食うようになった。すぐ近くにある小屋までなかなか到着しない。青年小屋で雨具を脱ぎ、昼食をとる。
 八ヶ岳山系は山小屋が密集しており、少なくとも2時間ごとに一軒の山小屋がある感じなのでどこで泊まってもよいのであるが、明日はこの山行で一番の難所の赤岳の登りを控えているので、その直近のキレット小屋まで入っておきたい。幸い天気は完全に回復した。
 腹ごしらえも出来、体調も回復した。正面に聳える権現岳へと向かう。権現岳頂上。北には明日登る赤岳とその左に阿弥陀岳が急峻な姿を見せている。振り返ると編笠山のなだらかな山容が見える。
 キレット小屋までは細い稜線伝いだ。びっくりするほど長い鉄ばしごを下る。そろそろ降ったかなと下を見るとまだ半分だ。あとは坦々と稜線を辿る。
 4時半、やっとキレット小屋に着く。小屋の入り口に腰掛けてビールを飲んでいた男性がびっくりしたようにこちらを見ている。アレッ、ひょっとして。やっぱり、山仲間の駱駝さんだ。大阪からこんなに離れたところでの邂逅にびっくりして喜ぶ。彼は一日早くここまで来てテントを張ったが、今朝の雨で停滞していたとのこと。明日の同行を約する。
 小屋には、日本百名山のビデオを撮りに入っているNHKのクルー数名と、あと5人ほどの登山客のグループのみでゆったりとしている。夕食は名物のカレーである。
林の中の石人  ハクサンシャクナゲ  青年小屋と権現岳   クルマユリ
 
ゴゼンタチバナ  ウスユキソウ  タカネバラ  ミヤママンネングサ 
タイツリオウギ   ? 権現岳  赤岳(右)と阿弥陀岳
     
編笠山を振り返る 長い梯子 コマクサの群落  コマクサ 


8月2日(金) 快晴である。6時半、出発。駱駝さんは大荷物をしょって、しっかりとした足取りで楽々と急登をこなしてゆく。左手に見える阿弥陀岳の姿が美しい。どうしようかと迷っていたが、この山に登らないのは心残りだ。頑張ってピストンしよう。はしご、鎖を乗り越えて赤岳山頂に到着する。ここまでちょうど2時間、コースタイム通りだ。
 さすがに人気の山だけあって、登山者が多い。山頂からの眺めも素晴らしい。
 山頂で駱駝さんと別れて、空荷で阿弥陀岳に向かう。下の行者小屋から赤岳へと登山者が続々と登ってきている。阿弥陀頂上はガスに包まれていたが、しばらく待っていると赤岳が姿を現してくれた。急いで赤岳に戻る。
 横岳に向かう。横岳一帯は岩稜が続くが、しっかりした鎖、はしごで不安のある場所はない。神戸の女子中高生の団体数十名とすれ違う。みんな溌剌として可愛い。ああ、若いことは素晴らしいな。過ぎ去りし昔を思い出す。
 横岳山頂。ガスであまり眺望はない。今日はどこで泊まろうか。八ヶ岳は大体二時間毎に小屋がある。北アルプスよりもずっと小屋の密度が高い感じだ。あまり先を急ぐことはないので、硫黄岳山荘に電話して予約する。
 横岳の岩場を過ぎると広々とした砂礫の尾根となり、一面コマクサが満開だ。ただし、ずっと防護柵で囲われている。コマクサは鹿の好物らしく2800mを越えるこの辺りまで食べにやってくるようだ。今日の泊まりの硫黄岳山荘到着。取り敢えず生ビールを一杯飲みながら、小屋の前の椅子に腰掛けて草原を見渡す。
 お花畑の遊歩道を一周するも、あまり花は見られない。
キレット小屋黎明  遙かに富士山を望む   林の中のキレット小屋  白いコマクサ
権現岳を振り返る   岩の登り キンロバイ? 尾根の登り 
 イワギキョウ  駱駝さん 赤岳山頂  阿弥陀岳 
阿弥陀岳山頂  阿弥陀より赤岳を望む   横岳付近の縦走路  硫黄岳山荘


8月3日(土) 朝、雲海の上の日の出。今日も快晴だ。出発して硫黄岳頂上に向かう。
 広々とした山頂からの眺望は最高だ。通ってきた権現、赤、阿弥陀、横岳、これから向かう蓼科山までの八ヶ岳連峰、南、中央、北アルプスから頸城山塊まで綺麗に見える。北の方に見えるのは日光辺りかな? 残念ながら富士山は赤岳の後で見えない。
 少し進むと、硫黄岳の荒々しい火口壁が姿を見せる。その下に去年泊まった本沢温泉の小屋が見える。前面には夏沢峠の小屋が青々とした針葉樹林の木の間に見えている。本当はコマクサ荘に泊まってヤマネやモモンガの姿を見たかったのだが、硫黄岳からの展望が素晴らしかったのでよしとしよう。
 夏沢峠、根石岳、天狗岳となだらかな山稜を行く。天狗岳から黒百合平へ雲ノ平に似た美しい−−−を下ってゆく。黒百合ヒュッテ。草原は防護柵に囲まれた小さなもので、黒百合は2週間前に終わってしまったとのこと。今は見るべきものは何もない。小屋の前で硫黄岳山荘で作ってもらった弁当を食べる。山小屋の弁当にしてはなかなか豪華だ。
 中山峠から枯木と若木の混じる樹林帯を抜けると中山に着く。展望台から見ると正面の丸山のなだらかな山腹に幾条かの縞枯れ模様が見える。中山から高見石まではなだらかな長い下り道だが、滑りやすい石がゴロゴロしていて片眼には辛い道だ。一、二度滑って転ぶ。
 高見石の上に立つと眼下に白駒池が神秘的な姿を見せている。この池をパスするわけにはいかない。池の方へ下ってゆく。池畔に立つと何というほどのものでもないのだが、折角だからと池の周りを回って駐車場から今日の泊まりの麦草ヒュッテへと旧街道を辿る。途中の緑の灌木帯が印象的だ。
 麦草ヒュッテ。麦草峠の車道沿いにあるためか、立派な小屋だ。客の半分はドライブ途中の客のようだ。

雲海上の日の出 硫黄岳   赤岳、阿弥陀岳を振り返る  硫黄岳山頂
硫黄岳火口壁   夏沢峠と天狗岳  硫黄岳を振り返る 縞枯の樹林 
 根石山荘と西天狗岳  山上の蒼天  天狗の奥庭 トウヤクリンドウ 
 黒百合平  シュロソウ  カラマツソウ  丸山山腹の縞枯れ
 中山から高見石への道  高見石から眺める白駒池 茶臼山から蓼科山  白駒池 
 麦草峠付近 麦草ヒュッテ   キバナオダマキ  トリアシショウマ



8月4日(日) ヒュッテ3階の窓から見える日の出が美しい。今日も快晴だ。ゆっくりとした朝食のあと、ノンビリと出発する。
 第一のピークは茶臼山。展望台に立つが、縞枯山の由来の縞枯れは昔写真で見たように著明な状態ではない。いずれ縞枯れは無くなってしまうのではないだろうか。
 縞枯山から雨池峠に着く。本来ならばここから雨池山、三ヶ岳と忠実に稜線を辿るべきだろうが、どうもここは岩だらけで難所らしい。それと坪庭の景色も見てみたいので、縞枯山荘前からロープウェイ駅に向かう。
 ロープウェイ駅から坪庭経由で北横岳へ登る。ここは今年の冬に通った道だが、冬景色の方がよかったか。これで稜線を辿らなかった悔いが残った。
 北横岳山頂は簡単に登れる山だけあって、大変な賑わいである。素通りして大岳に向かう。道はとたんに悪くなり、人はほとんど見えない。木の間より北横岳ヒュッテとその下の七ッ池がきれいに見える。双子池へ下る道との分岐点から大岳へピストンする。ペンキのマークを探しながら大きな岩を乗り越して大岳に到る。名前負けしている小さなピークではあるが、万緑の中に唯一人立ったようで、清々しい気分になる。通り損ねた三ヶ岳がすぐそこに見える。どうも三ヶ岳、北横岳、大岳は円形のカルデラの縁に並ぶピークのようだ。一周するのも面白いかも。
 双子池までの下りもなかなかの難路だが、天狗の露地辺りは素晴らしい緑の中の道だ。
 双子池。登山者がちらほら、ノンビリした気分になれる。二つの池のあいだの双子池ヒュッテに泊まってみたいが、少し時間が早すぎる。次の大河原ヒュッテまで足を伸ばそう。双子山山頂まではなだらかで楽な登りだ。広々とした山頂で電話を掛けるが出ない。今日は閉めているのかな? やむを得ず一つ先の蓼科山荘を予約する。大河原峠に着いてみると上から見えた立派な建物は山小屋ではなく、その横の小さな傷んだ小屋がヒュッテだ。これは宿泊するにはちょっと躊躇する。ここから蓼科山荘までは300mの登り、頑張って一時間少々で到着する。小屋に到着したとたん、突然の夕立。あと10分も遅れるとびしょ濡れになるところだった。雨のあと、木々の上にきれいな虹が出た。
 森の中の小さな小屋に今日は私一人の宿泊だ。

麦草峠黎明  ヤナギラン 茶臼山 茶臼山からの南八ヶ岳 
 縞枯山の縞枯れ バイケイソウ   雨池峠  坪庭からの縞枯山
 
 七ッ池と北横岳ヒュッテ 大岳   大岳から見た三ッ岳 天狗の露地 
 天狗の露地の道 双子池が見えた   大河原峠 蓼科山荘 



8月5日(月) ついに晴れ男の運も尽きて、小雨模様の中雨具を付けての出発。30分ほど石ころで歩きにくい道を辿ると蓼科山頂上に着く。深い霧に包まれている。三角点から神社に行こうとするが変な方向に迷い込む。GPSが無いとちょっと恐いところだ。
 小雨の中、滑りやすい石ころだらけの道をそろりそろりと下る。片眼になってから最も苦手とする道だ。ストックをプローブとして遠近感の不正確さを補正しなければならない。この冬に来たときは、雪ですっかり平らになっていたので下りはずっと楽だったのに。
 やっと下りきって、女神茶屋の前に出る。バスの時刻表を見るとしばらくバスは無いようだ。信玄棒道を蓼科へ下ろうか。それより最後のピーク八子ヶ峰を通って白樺湖へ下ろう。
 道路の反対側をちょこちょこと登ると八子ヶ峰ヒュッテに出る。きれいな小屋だが人影は無い。開いていればお茶の一杯でも飲みたい気分だが。
 雨がすっかりやんで、青空が見えてきた。道は草原の中、ほとんど上り下りも無く八子ヶ峰まで続いている。路傍の花が美しい。
 八子ヶ峰を過ぎたあたりで道を間違えた。道の状態がいい東急トレッキングコースというのに入り込んでしまった。大分進んでから気がついたので、引き返す気にはならない。まあどこかへは下山できるだろう。静かな樹林帯の中のなだらかな下り道だ。快適に歩ける。これはこれで楽しい歩きだ。
 トレッキングコースが終わりホテルの前に出る。フロントで尋ねると時々間違って下ってくる人がいるそうだ。ここから下ると白樺湖ではなく蓼科だとのこと。帰る前に温泉に入るつもりだから、蓼科の方が正解だったかも。タクシーを呼んで、この冬にも入った小斎の湯へ行き、今回の山旅はおしまい。 

 ミヤマシシウド 蓼科山頂の祠  霧の蓼科山頂  蓼科山下山 
マツムシソウ(八子ヶ峰)  カワラナデシコ  マルバダケブキ? オニユリ