三州街道と天竜川林道サイクリング
2016/11
ニュースで愛知県足助の香嵐渓の紅葉が盛りだと知って、この辺りをサイクリングしようと地図を拡げた。足助には三州街道(R153)が通っている。これを北へ走り飯田へ抜けよう。それから天竜川を下って前から訪れたいと思っていた天竜川林道を走って水窪へ抜けようとおおざっぱな計画を立てる。
11/16 「こだま」で三河安城に降り立ったのは9時過ぎ。10時出発。今日から数日は雨はなさそうな予報である。
とりあえず矢作川へ出て土手を走ろうと思うが、なかなかたどり着けない。ようやく矢作川河畔に出る。なかなかの清流である。ウロウロしながら豊田市にたどり着く。ここは以前「挙母(ころも)」という地名で、挙母藩の城下町であったが、自動車会社の名前を冠するようになった。挙母はなかなか由緒のあるゆかしい名前だけに残念な気がするが、現在はトヨタの城下町だから仕方ないか。おや挙母神社というのがある。ちょっとお参りしよう。
明治用水の神社(田植え姿のモニュメント) | 矢作川 | 挙母神社 |
昼飯にうどんを食べるともう1時半。急いでR153を辿る。やがて矢作川を離れて山間部に入ってゆくが、たいした登りはない。鉄道の軌道跡を走る。
足助が近づくと車の渋滞がひどくなる。平日だが香嵐渓見物の車だろう。
軌道跡の道路 |
足助香嵐渓。矢作川支流の巴川の河畔に植えられた楓の林で見事な紅葉である。難を言えば赤すぎてちょっとどぎつい感じである。それと凄い人混み。足助の町の稼ぎ時だ。ゆっくりして香積寺の参拝や足助の古い町並みを散策したいところだが、もう3時過ぎだ。今回は先を急ごう。
道は徐々に高度を上げて伊勢神トンネルまで約15km、500mの登りだ。伊勢神トンネルは旧道へ上がる予定だったが、もう5時近い、そんな余裕はない。段々暮れてゆく中、必死に漕いでようやく稲武の町に入った時はとっぷり暮れてテントを張る場所も判らない。おまけに風が強くて、気温も5℃と寒い。国道沿いの夏焼温泉に飛び込む。
晩飯は近くのラーメン屋。湯は冷泉の沸かし湯だが、大きな浴槽で気持ちがいい。
走行距離 74km 獲得標高 845m
走行ルート
11/17 朝飯抜きで6時出発。しばらく走ると、再び矢作川と出会い、上流へと遡る。この辺り標高500m位の山中である。根羽村で長野県に入る。道は徐々に高度を上げて赤坂峠(標高900m)を目指す。R153は走りやすい道だが、大型トラックやタンクローリーがビュンビュン飛ばして追い越してゆくので気持ちはあまりよくない。それでときどき脇の旧道を走る。
「信玄塚」という大きな標識がある。ここが武田信玄病没の地らしい。宝篋印塔が祀られている。横旗という地名も風林火山の旗を横にしたという由来があるようだ。
路傍の紅葉 | 矢作川 |
長野県に入る | 御嶽信仰かな? |
宝篋印塔 |
赤坂峠を越え、ちょっと下ると平谷村だ。ここで以前通ったR418とクロスする。あれもなかなか面白くて苦しいサイクリングだった。人口500程の小さな高原の村だが、立派な道の駅がある。ここから更に300m上がると治部坂峠(1200m)だ。今回の旅の最高地点だ。10時過ぎだ。ようやく店を開けた土産物屋で野沢菜饅頭と赤飯饅頭というので空腹を満たす。ここから15kmの長い下りで阿知川に出合う。
赤坂峠付近 | R418とクロスする |
治部坂峠を目指す | 峠の展望(中央アルプス空木岳付近?) |
予定では飯田まで走るつもりだったが、R153はもう走り飽きた。それにここから先は昔御坂峠越えで走ったことがある。この辺りから天竜川へ下ろう。道にたくさん警官が出ている。聞いてみると今日は陛下の行幸があり、満蒙開拓団の資料館を訪問されるとのことだ。
この辺り地形が複雑で、道が錯綜しており判りにくい。上ったり下ったりしながらようやく下のR151に出る。天竜川沿いには道がないのでR151を南下する。「蕎麦の城」という道の駅がある。蕎麦を食おう。辛味大根のおろし蕎麦が辛くて旨い。
阿南町のスーパーで夕食と酒を仕入れて、天竜川へ下る。少し川沿いに下ると飯田線の為栗(してぐり)駅の傍、和知野川の流れ込みの河原に大きな広場がある。4時丁度だ。ここらでテントを張ろうと、下ってみると広場は野球場とサッカー場を併せた広大なものだが現在は草茫茫で放置されている。一応看板が出ていてキャンプ禁止と書いてある。この少し上流にキャンプ場があるらしいのでそちらに行けということらしい。バーベキューやるような盛大なオートキャンプではなし、草むらの中にこっそりとテントを張らせてもらう。
阿智村の農村風景 | やっと天竜川に出た | キャンプサイト |
飛行機と自動車の音がときどき聞こえるが、まずまずのテントサイトだ。壊れかけたベンチに腰掛けて一杯やりながら星を眺める。
走行距離 85km 獲得標高 1555m
走行ルート
11/18 6時出発。今走っているのは天竜川沿いの長野、愛知、静岡三県に跨がる県道1号線だ。三県を同じナンバーの県道で繋がってるのは珍しいな。
平岡の町に出る。ここで昨日クロスしたR418と再会する。鴬巣から天竜川林道に入る。林道入り口に静岡県側で通行止めとの標示がある。ちょっと嫌な気分になるが、行くしかない。しばらく漕ぎ上がっていくと中井侍の集落の上に出る。茶畑の斜面のジグザグの急坂を駅まで下る。中井侍駅も飯田線秘境駅の一つで幅の狭いホームがあるだけである。丁度列車が入って来た。
天竜川沿いを走る | 天竜川沿いを走る |
平岡ダム | 平岡の町 |
天竜川林道 | 中井侍駅への下り道 |
中井侍の集落 | 中井侍駅 |
中井侍は「おじろく・おばさ」の存在で民俗学的に知られた集落だが、ここに限らず小さな山奥の集落では限られた生産力で養える人口は決まっており、さりとて余剰の人間を外に出すすべもなければ、姥捨て、間引き、「おじろく・おばさ」などはどこでも行われた風習であったのであろう。
さて林道に戻って更に苦しい登りが続く。標高700mで登りは一段落。県境を越えて静岡県に入る。水窪町かと思えば、合併して今は浜松市の一部だそうな。
路傍の庚申塔 | だいぶ登ってきたぞ | 林道を行く |
ほとんど車の通行がないのか落ち葉が積み重なっている道路をしばらく走ると塩沢集落。ここから山道を標高差300m下ると飯田線で最も秘境の小和田駅がある。駅に一番近い集落がこの塩沢である。路傍で落ち葉かきをしていた老女に通行止め情報を聞くと今日は仮通行出来るとのこと。ヤレヤレ。しばらく話をする。今は数軒老人ばかりが住んでいるが、通行止めが数ヶ月続いて大変難儀したとのこと。対岸に八嶽山のスッキリと聳えて素晴らしい景観であるが、生活は大変だろうな。通行止めの工事現場を過ぎて美しい紅葉の道を行くと、大嵐(おおぞれ)駅に下る西山林道分岐に出る。
小和田駅への山道 | 塩沢集落にて |
対岸の八嶽山 | 無住の農家 |
紅葉1 | 紅葉2 |
紅葉3 | 西山林道との分岐 |
ここで迷う。このまま水窪へ出て天竜川林道を完走するのもよいが、ここから下って大嵐から夏焼隧道を抜けて有名な夏焼集落を訪れるのもよいな。ここに荷物を置いて林道の最高地点、大津峠(900m)を往復すればまあ天竜川林道はほぼ完走したと云えるだろう。そうしよう。空荷になると登りは楽だなー。
大津峠 | 峠の祠 |
素晴らしい紅葉の林道を大嵐駅目指して下る。下り一方かと思っていたら短いながら苦しい登りがあった。大嵐駅、ここは対岸の愛知県に富山村の中心地があるから秘境駅とは云えない。
西山林道を下る | 大嵐駅 |
天竜川林道で一番の楓だった
現在の飯田線はここから長いトンネルで水窪へ抜けるが、佐久間ダムが出来る前は天竜川沿いに下って佐久間へ抜けていた。その名残のトンネルが夏焼隧道で、これがトンネルを抜けた前にある夏焼集落への唯一の通行路である。真っ暗な長いトンネルを抜け、山道を少し登ると集落に出る。畑仕事をしている人に尋ねると、現在は5軒居住しているとのこと。駅も近いし、店も遠くはなく生活の不便はないとのことだ。たしかに前の塩沢集落に較べるとずっと便利かも。ただダムが満水になるとトンネルが冠水して、ボートを使うか山越えするかして外部に出るとのことだ。しかし、斜面の猫の額ほどの農地では生活には十分ではなさそうなので、近くの町まで通勤しているのかな。
夏焼集落への道 | 夏焼隧道 |
集落への道 | 坂道を登る |
夏焼集落 | 集落最上部の神社 |
対岸から見た夏焼集落
さていよいよ旅も終わりに近づいた。後はダム湖畔の県道1号線を中部天竜まで約30kmを突っ走るだけだ。あまり時間の余裕はないが、ほとんど平らな道なので問題はないだろう。あまり路面状態が良い道とは云えないが、幸い車もほとんど通っていない。
ダム湖の浚渫船(あるいは砂利を採取しているのか?) | 佐久間ダム |
中部天竜駅に特急列車の発車1時間以上前に着いたが、駅の近くにはゆっくりしようにも何にもない。
走行距離 81km 獲得標高 1463m
走行ルート
なかなか面白いサイクリングだった。だんだん体が硬くなって、自転車を跨ぐのに一苦労するようになった。もうあまり長くは乗れないな。3日間、登りはきつかったが、一日走って百キロいかないというのも情けない話だ。