私の本州縦断サイクリングも最大のヤマ場を迎えた。この春には、東は青森県竜飛崎から福島県会津田島まで、西は山口県下関から岐阜県平湯まで繋がった。それで、今回は会津田島から長野県新島々までを繋いで、この秋にでも乗鞍越えで本州縦断を完結したいと考えている。
 しかし、今回のコースは福島県、栃木県、群馬県、長野県を走破するので相当に長く、また高度差も大分ある。二度に分けるのも面倒なので一週間ぐらいかけて、一度で片付けたいと覚悟を決めて出発した。使用する自転車はGiosのクロスバイクで、後輪にはMTB用のスプロケット(ギア)を付けて登りに強くした。ペダルもビンディングに付け替えて万全の用意である。

5/16
(土)
 昼食をすませて白河を出発したのは午後2時。天候は曇りである。今日は前回の終点である会津田島辺りまでの予定である。
 県道37号線を真名子川に沿って何と云うこともない田園地帯を走る。真名子部落を過ぎると峠に向かって登りとなる。峠辺りではヤマツツジが美しい。峠を越えて降ると羽鳥湖(人造湖)であるが、素通りして先を急ぐ。R118と合流して、阿賀川本流を目指して下り坂を快調に走る。顔に雨粒が当たるが、雨具を着けるほどのことはない。

   
ヤマツツジ  鶴沼川


 やがて、阿賀川本流に出ると、湯野上温泉である。前回はここで一泊したが、今回は素通り。コンビニで今夜の食料を調達して、R121を会津田島に向かう。
 6時、ふるさと公園着。林の中のアズマヤの中にテントを張る。静かなところである。雨が降り出した。走行距離58km。 

5/17
(日)

 昨夜からの雨は止みそうにない。晴れていれば、田代峠を越えて奥鬼怒辺りまでと考えていたが、これではまず湯ノ花温泉までか。
 今回新調したサイクリング用の靴はちょっとしたハイキングにも使える仕様であり、ゴアテックスでカバーされている。問題は上からしみこむ雨をどう防ぐかであるが、頭を絞って、まず靴を登山用ショートスパッツでカバーし、その上からサイクリング用レインパンツを穿く。パンツの裾をサイクルバンドで締める。これで雨が入らぬことを期待しよう。 6時半、出発。途中、コンビニで朝食を摂ったり、駅で休憩をしながら、R121を南下し、R352に入る。野岩鉄道会津高原駅に9時半着。雨はひどくなる。
 これから中山トンネルまで、300m程の上りであるが道はよい。雨で新緑がけむり、素晴らしい色である。

 
 中山トンネル付近の新緑


 トンネルを越えると、旧舘岩村(現南会津町)である。丁度12時、湯ノ花温泉に到着。取りあえずただ一軒の蕎麦屋に入る。ここの盛りそばが素晴らしく旨かった。主人の話では、田代峠を越える県道は冬期閉鎖中とのこと。しかし自転車なら通行できるのではないかとの観測。今年は非常に雪が少なかったので、私もそう思う。この雨では、今日は温泉泊まりとしよう。主人に近くの民宿を教えて貰う。そこは渓流釣りの宿らしく、数名の釣り師が滞在してた。
 まだ昼過ぎである。四つある外湯には全部入ろうと、傘を差して村を散歩する。雨に煙る新緑の中の田園風景を楽しみながらぶらぶらする。村を流れる渓流が美しい。石湯は渓流沿いに立つ小さな小屋で、鄙びた雰囲気がよく、また湯も素晴らしい。

     
 湯ノ花温泉を流れる湯ノ岐川  温泉旅館の庭の花  湯ノ岐川畔の石湯
 
 石湯の湯船  せせらぎのウワミズザクラ  雨に煙る湯ノ花集落


 三十年以上も前、ここでバスを下り田代山へ登ったことが思い出される。あの頃はもっと鄙びた温泉であり、心惹かれたが先を急いだため、素通りした。山頂の弘法大師堂で震えながら一泊したのであった。
 この日の走行距離52km。

5/18
(月)

 4:30出発。曇り空ながら、雨は止んでいる。一応、昨日と同様の雨対策をする。昨日はこれで靴の中が濡れることはなかった。
 県道舘岩栗山線を進むと、3km程で福島県側最後の集落水引を通過する。ここで舗装はお終いである。6月8日までの冬期通行止めの標識が立っている。この日が田代山の山開きだそうな。地道であるが路面状態はそれほど悪くなく、快適に走ることが出来る。
 青空が見えて、朝日が射してきた。所々に車が止まっている。釣師か山菜採りだろう。登るにつれて路面が悪くなってくる。

 
 水引の集落  我が愛車  田代峠近し


 7時、田代山登山口に到着。高度1400m。峠までもう一がんばりだ。道端に残雪が見えてきた。ゲッ!、倒木が道を塞いでいる。荷物を下ろして、自転車を担いで越える。次は雪だ。何とか押して越えられる。ハイキングも出来ると謳っているサイクリング用靴だがよく滑る。アイゼンが欲しいぐらいだ。
 8時、やっと峠到着。標高1600m。とたんに突風に襲われる。とても自転車に乗っていられる状態ではない。ゲートが閉まっていて、押し通ると「六ヶ月以下の懲役または三十万円以下の罰金」と書いてある。まあ自転車はこの範疇には入らないだろうと、下を潜って通り抜ける。栃木県側の県道は峰に沿って水平に伸びているが、路面はひどい状態である。大きな石がゴロゴロ転がっており、雪崩除けの鉄柵が倒れて路面を塞いでいる。おまけに強風である。しばらくは押して歩く。

 道路を塞ぐ倒木  峠から見る田代山  冬期通行止めのゲート


 下りとなると路面状態は悪くとも、ペダルを漕がなくてもよいだけ、自転車はコントロールしやすく順調に走る。止まるとき、靴がペダルが離れなくて転倒。まだビンディングのペダルには慣れていないので、咄嗟の反応が出来ない。
 湯西川への分岐点の手前に下側のゲートがあり、これを越えると舗装道路となる。ヤレヤレ。25km以上のダートだった。ここからは一気の下りで土呂部の集落を通り抜け、川俣ダムへ向かう道と合流する。10時半。綺麗に晴れ暑くなった日差しの中、鬼怒川の沿って川俣温泉に向かってひた走る。12時半、川俣温泉最奥部の夫婦淵温泉に到着。
 ここからは奥鬼怒山をトンネルで群馬県に抜ける奥鬼怒林道である。一般車両は通行止めのダートだ。8km程で加仁湯。ここまでは温泉送迎バスが行き来しており、比較的路面状態がよい。路傍の作業員に尋ねると、笑いながらこれからが大変だよと教えてくれる。しかし、群馬県側は路面がよいらしい。ここから350mの上りである。
 苦しい、タイヤの太いMTBが欲しい! 砂利がゴロゴロしてタイヤが滑る。トンネル手前の最後の上りでとうとう前輪が滑り転倒。ハンドルでしたたか胸を打つ。これで元気を失い、後数百メートルは押してゆく。トンネル到着、15:50。標高1700m。長いトンネルを越えると群馬県に入る。一気に坂道を下り、片品村の大清水に16:40到着。23kmのダートだった。

     
 日光連山遠望  加仁湯  奥鬼怒林道の山
     
 残雪の林道  栃木・群馬を結ぶ奥鬼怒トンネル  尾瀬側の林道起点


 日が傾き、気温が下がってきた。雨具の上着を着込み、戸倉温泉に向かって気持ちよくスピードを上げる。サイクリストがさっと追い抜いてゆく。薄い半袖のシャツに膝上のパンツ姿だ。見るからに寒そう。
 17時、戸倉到着。店で食料と酒を買い込んで、集落はずれの広場にテントを張る。近くの側溝から子狐が顔を出す。
 本日の走行距離94km。

5/19
(火)

 朝、少しだるい。体がほてっている。昨日のハードなコースの疲れが残っているのか。本当なら一日休養すべきなのだろうが。
 4:30出発。今日も快晴だ。坤六峠を目指す。大した登りでもないがやはり調子が上がらない。尾瀬鳩待峠への分岐、津奈木橋まで1時間半もかかる。あれ、またまた冬期通行止めだ。ここから坤六峠方面は一週間後の開通だ。一瞬、片品川沿いに沼田まで下るかとの考えるが、一週間後の開通と云うことは、もう路面には雪はないだろう。ゲートを潜って進む。この道は舗装されている。シコシコと漕ぎ上がる。のろくとも時間をかければいいのだ。上るにつれて、至仏山方面の景色がひろがる。新緑と残雪のコントラストが素晴らしい。
 7時、坤六峠着。標高1600m。路面に雪は全くなかった。

 
 またまた通行止  至仏山方面の残雪  坤六峠


 ここから利根川支流、木の根沢に沿っての下りの景色は素晴らしい。雪解け水が新緑の中を次々と滝を架けながら流れ下ってゆく。照葉峡というらしい。秋の紅葉は一段と素晴らしいのだろう。湯ノ小屋温泉。奈良俣ダムのロックフィルの堰堤が聳えている。洞元湖、藤原湖と利根川に沿って下り、水上温泉を目指す。湯桧曽川との合流点から少し下ると水上温泉だ。10時過ぎ、水上駅到着。

     
 峠付近の林  木ノ根沢(照葉峡)  照葉峡の滝


 ここから仏岩トンネルを越えて猿ヶ京温泉を目指す。トンネルへの登りは日差しがきつく、汗が目に入る。途中の流れで冷やしソーメンを作る。麺はお気に入りの白石温麺だ。ヘルメットの下に被っているステンレスメッシュ(といっても繊維)の帽子で漉して、冷やす。禿羊特製の帽子ソーメンだ。旨い。これで元気が出た。

 仏岩トンネルを越えて少し下ると、神社があり小さな石仏が並んでいる。中に寛政の年号のものもある。心惹かれる佇まいである。谷間の木々に藤がまとわり付き満開の花を垂れ下がらせている。
 猿ヶ京からは更に西へと大道峠を越える。峠の頂上に開鑿記念碑が建ち、その署名に神田坤六知事とある。坤六峠もきっとこの人の名にちなんだものだ。納得。

   
 禿羊特製帽子ソーメン  路傍の石仏
 
 高木にまとわりついた藤の花  大道峠


 峠を下り、中之条町へと向かう。結構、上り下りが多い。なんて丘の多い町なんだ。嵩山という岩山の直下を通過する。なんか、この山登った気がする。昔、魁猿が石仏に凝ったことがあった。その時、連れられてこの辺りを廻った時だ。山の上に石仏が並んでいたと思う。
 中之条駅、15時。さて、ここから草津温泉へは吾妻川沿いのコースを取るか、沢渡温泉から暮坂峠経由にするか迷うが、峠があるならそちらにしようと沢渡温泉に向かう。16時過ぎ、沢渡温泉到着。ちょっと気張って、老舗旅館に宿を取る。湯は最高である。料理もまあまあだが、決してプロの板前が作るものではない。旅館に泊ると、テントでは味わえない寛ぎが感じられる。洗濯機があり、着ているものを全部洗う。
 この日の走行距離、約107km。

5/20
(水)

 今日は草津白根を越える。中盤のハイライトだ。今日も快晴だ。
 5時出発。道は緩やかに暮坂峠へと登ってゆく。途中、大岩という小さな集落に古い小学校の校舎が残っており、これが若山牧水記念館となっている。牧水は草津から沢渡温泉へ暮坂峠を越えたことがある。この紀行は昔、古本屋で買って読んだ記憶がある(この文を書くに当たって倉庫を探したが見つからなかった)。日本やまんなか縦断で牧水とは以前備中備後国境でお目にかかった。これが二度目である。
 7時、暮坂峠到着。ここにも牧水の詩碑が建っている。ここを下れば六合村だ。六合を「くに」と訓む。古事記から採ったそうだが相当なこじつけだ。
 草津温泉への上り。草津温泉へ仕事に通う車が多い。

 若山牧水記念館(旧小学校校舎)  暮坂峠(牧水詩碑)  草津温泉への上り(白根山と温泉のビルが見えてきた)


 9時、草津温泉に到着。コンビニの駐車場に座り込んで握り飯で朝飯。湯に入る時間ではないが、初めての町だ。名物の湯畑ぐらいは見なくっちゃ。壮観だ。毎分4.5トンの湯が出ているそうな。周りの賑やかなこと、さすが日本一の温泉地だ。
 いよいよ、白根山の上りにかかる。900mぐらいかな。高度を100m稼ぐ毎に一息入れる。途中、この辺りは硫化水素ガスが出ているので、駐停車禁止と書いてある。自転車はどうするんだ。車に比べると止まっているのと同じようなものである。硫黄の臭いがする。しかし今日は風が強いので大丈夫だろう。
 13時、白根山。湯釜まで上がってゆく元気もない。この二月、スノーシューで来たときとは景色が全く違う。あの時は弓池の辺りは雪原となっていて白一色だった。不味いラーメンで昼食。
 前後輪にサイドバックを着けたツーリングサイクルが停めてある。同じような物好きがいるんだと心強くなる。やがて、二十歳前後の若者が現れる。聞くと、中学卒業後、定職に就かず全国を自転車で放浪しているとのこと。金がなくなるとそこで少し仕事をして、また旅を続けるらしい。ウーン、うらやましいことはうらやましいが、好きな女性が出来て結婚を考えたり、歳をとって体力が衰えたらどうするんだろう。老婆心ながらちょっと心配になる。
 若者と前後しながら、渋峠に向かう。アー、まだ上りがある。渋峠への最後のヘアピンを息を切らせながら、必死で漕ぐ。MTB用のギアでよかった。先を行く若者は高速用のギアを付けているらしく、ずっと立ち漕ぎで登ってゆく。
 15時、渋峠。2172m。日本の国道最高点である。長野県との県境でもある。眼下の景色に見とれながら一息入れる。ここから志賀高原までは一気の下りである。風を切って快走する。後から出た若者にさっと追い抜かれる。これでさらばである。

   
 弓池風景  弓池の湿原  若者のクロスバイク
     
 渋峠付近の風景(白根山方面)  国道最高点眼下の眺め  渋峠付近の風景


 志賀高原で道を間違える。本来はここから奥志賀スーパー林道に入り、野沢温泉に向かう予定であったが、琵琶池を廻る道に入って渋温泉に下る国道に出た。頑張って林道入口まで戻ってみたが、見ると道は延々と上りが続いている。これで気持ちが萎えた。292号線を渋温泉へと下る。
 17時、渋温泉。今日はテント泊の予定であったが、気持ちの張りが切れると、どんどん軟弱になる。案内所で宿を紹介してもらう。
 宿で大きな鍵を受け取り、外湯巡り。外湯には鍵がかかっていて、自分で開けて入るのだ。全部はとても回れないので、九番・大湯と六番・目洗いの湯に入る。ここまでほぼ毎日温泉に入っている。気持ちよく、疲れが取れてゆく。旅館の露天風呂もなかなか結構である。
 宿の夕食はビーフステーキまで出て、全部食べると体に悪いのではと思うほどの量だった。全部食べたけど。
 本日の走行距離78km。

5/21
(木)

 今日の予定は妙高高原笹ヶ峰までである。奥志賀林道から野沢温泉を回ってゆけば、適当な距離だったが、ここから直接向かうと短すぎる。長野市で善光寺をお参りしてから、妙高へ向かおう。ブレーキの減りも気になるので、予備を買っておきたいし。
 6時出発。今日も暑そう。
 7時、小布施の町。まだ、何処も開いている時間ではないので、町を見ながら素通りする。千曲川を渡ると、長野市に入る。山好きだから、長野県にはよく来るが、長野市は初めてである。自転車で都会を走るのは嫌いだから、ソソクサと町中を通り抜け、善光寺に向かう。
 9時半、善光寺。前立本尊ご開帳だとかで、平日というのにひどい人混みである。この長い行列に並んで、本尊を拝する気にはなれない。立派な本堂や山門を見上げて感心し、門前町を通り抜ける。善男善女の人混みの中、私だけは縁なき衆生である。お賽銭はあげたけど、御利益は期待できない。
 ブレーキの予備を買って、北へと向かう。妙高方面へはいくつか道があるが、車の通行量が少なく、しかも平坦で楽そうな県道60号線をとる。昔の北国街道である。
 暑い。たまらず、路傍の小さな社の木陰にシートを敷いて一時間ほど昼寝をする。石の馬頭観音の足下だ。涼しい風が通り抜ける。周りはリンゴ畑。今は摘果作業の最中で、皆さん暑い日差しの中で働いておられる。
 12時半、牟礼の町にはいる。真昼の町中はひっそりとしている。普光寺という名が地図に見える。行ってみると古い寺はあるが普光寺という寺は見あたらない。今は地名だけとなったのか。
 牟礼でR18に入り、飯綱山麓の坂を上ってゆく。このクラスの国道となると、車の通行量は多いが路肩は広く傾斜も緩やかで、嫌いではあるが、走りやすいことは確かだ。坂を登り切ったところでR18から外れ、急坂を上り県道37号線に入る。多少苦しくとも、静かな道がいい。正面にはもう妙高山が見えている。まだ大分雪が残っている。

     
 千曲川を渡る  馬頭観音石仏  妙高山遠望


 黒姫山麓の別荘地の中に入る。MTBに乗った何グループかの中学生に行き違う。林間学校かな。通りがかりの酒屋で今夜の酒と夕食になりそうなものをいくつか購入する。酒屋にはあまり夕食の足しになりそうなものはないなー。特別安くしてくれたタラの干物のつまみを買う。
 15時、関川を渡ると、新潟県である。妙高高原が新潟県だとは初めて知った。杉野沢、今回通る新潟県唯一の集落である。冬はスキーで賑わうようだが、今はひっそりとしている。ここから笹ヶ峰まで600m程の上りである。冬はスキー場となる山腹の九十九折りをゆっくりと上る。ここでも100m稼ぐと一息入れる。後には遙かに野尻湖の湖面が光って見える。時々、雨粒が顔を打つ。キャンプ場まで天候が持ってくれることを願いながら進む。
 池の峰の山肩を越えると、あとはなだらかな道を笹ヶ峰まで走る。
 笹ヶ峰の施設はどれもまだシャッターを閉じてひっそりとしている。キャンプ場も無人。炊事場も水は出ない。駐車場に一台車が止まっている。ここで夜を過ごすようだ。雨が来そうなので、キャンプ場の炊事場の中にテントを張り、近くの水芭蕉の咲く流れで水を汲む。傍らの残雪にワイン、焼酎、日本酒の小瓶を埋めて、夕食の支度。食事は粗末だが、酒はたっぷりだ。
 夜、ひとしきりの雨。
 本日の走行距離88km。

   
 野尻湖遠望  残雪深い黒姫山  キャンプ場炊事場にテントを張る



5/22
(金)

 幸い雨は上がっている。今日明日で松本まで行けばよいので、ノンビリする。
 7時出発。道はすぐダートとなるが、新緑の中、ダム湖の周りを行く道はなだらかである。せせらぎにはミズバショウが花盛りだ。キビタキのつがいが木々を渡りながら戯れている。一瞬、蝶が舞っているのかと思うような優雅な羽ばたきだ。ムシカリの花も今が盛りだ。

 
 キャンプ場の朝  ミズバショウの群落 ムシカリの花
 キビタキのつがい 乙見湖と地蔵山   峠近くから笹ヶ峰を振り返る


 下ってくるトラックを呼び止めて、若い作業員に小谷温泉まで通れるかと尋ねると、「通れるよ」と言う。道の状態は、峠のトンネルまではダートの急な上りだがトンネルを越えると道は好くなるとのこと。ヤレヤレ、一安心。通れなければ、バックして戸隠から鬼無里のコースに変更しなければならなかった。
 道は川から峠への急な上りにかかるが、上りはわずか200m程だ。峠手前。ゲッ!何だこれは。雪が小山のように道を塞いでいる。さっきの兄ちゃんは何を言ってたんだ。この先何が待っているか、不安になる。とにかく、自転車と荷物を二回に分けて担いで越える。トンネルまで残雪をいくつか押して越えるがさっきのが一番大きかった。残雪の周辺には大きなフキノトウが芽を出している。それを摘みながら進んでゆく。
トンネルを出て大きな残雪を越えると、西側の景色がひろがる。再び長野県だ。正面に見えるのは天狗原山か。急斜面の山腹を縫って雪解け後の荒れ果てた林道が下っている。幾筋もの雪崩の跡が道を覆って谷底に流れ落ちている。幸いどれも路肩は露出しているようだ。一週間も前なら通れなかっただろう。谷底まで続く雪の斜面を自転車を押して通り抜ける勇気はない。路肩が大きく崩壊しているところもある。車が通れるようになるにはまだ一ヶ月以上かかるだろう。これは2、3キロは押して歩かなければならないだろう。

     
 道を塞ぐ雪崩の跡  トンネル出口の残雪  雪解け後の荒れ果てた林道


 大きな谷を渡って道が直角に折れると舗装道路となる。落石が路面に散らばっているが、何とか乗って下れる。やがて通行止めの柵に出合う。新潟県側にはなかった。残雪が自然の柵となっているので必要ないか。
 10時半、小谷温泉雨飾荘。開放された露天風呂がある。ゆっくりと入浴。いい湯である。土地の人が入ってきた。しばらく話をする。日程に余裕が出来ると、ノンビリしていいもんだ。
 昼飯に帽子ソーメンを作り、姫川本流との出合(R148)に出る。ここで前ブレーキが金属音がして、全く効かなくなった。慣れない交換に時間がかかる。ネジを落して、草の間を探し回ったりして。
 姫川の清流に沿ってR148を南下する。車が嫌いなので出来るだけ旧道をとって走る。信濃森上辺りからは残雪の後立山連峰がきれいに見える。五竜岳の武田菱がくっきり浮き出ている。
 姫川源流の親海湿原を一回りしてミツガシワ、カキツバタ、ツツジなどを見る。
 一上りすると仁科三湖だ。今夜の泊り場を探しながら青木湖の西岸を走る。昔、家族で泊ったキャンプ場はまだ閉鎖されている。中綱湖の西岸にあずまやが見える。あそこにしよう。

 
 姫川の清流  信濃森上:後立山連峰  五竜岳  
 
 親海湿原:ミツガシワ  親海湿原:カキツバタ  中綱湖畔にテントを張る  


 5時、テントサイト。テントを張って、夕食の準備をしていると自転車で通りかかった爺さんにここはキャンプ場ではないと咎められたが、下手に出て大目に見てもらう。ここは車も来ない静かな場所だ。
 本日の走行距離65km。

5/23
(土)

 5時半、出発。今日も快晴。一路、新島々を目指す。木崎湖の西岸を走り、大町市街にも寄らず、安曇野アルプス山麓の道を南下する。爽やかな風の中のノンビリとした走り。もう特に書くこともない。
 9時半、穂高温泉郷の共同浴場で旅の汗を流し、帰りの服装に着替える。
 河岸段丘上の広大なリンゴ畑の中を走り、梓川を渡るともう新島々だ。
 12時、新島々到着。今回の旅はこれでお終い。
 走行距離57km。

 本州やまんなか縦走もあと岐阜県平湯から、ここ新島々までを残すだけとなった。この秋にでも乗鞍越えで繋ごう。日本となると、北海道は稚内から千歳、九州は何度も行っているが細切れなので門司から薩摩半島先端まで走り直さねばならない。これは来年以降だ。
 今回の旅の総計は、走行距離が600km、総獲得高度が約10,000m、ダートの走行は50kmちょっとだった。2002年に行った北海道一周よりもきつかった気がする。年のせいもあるが、上り下りが多かった。間で一日休養日を入れると大分楽だったのだろうが。

Google Mapへ