昨年の眼の怪我以来、片眼で自転車に乗るのが怖くて、三月終わりまで乗っていなかったが、これではいけないと連休にツーリングを再開することにした。手始めに恐る恐る我が家から京都府の亀岡まで往復してみたが、やはり両眼視が出来ない分少しバランスに不安を感じるがこれは慣れてきそうだ。それよりも筋力がすっかり弱っていて、わずか70kmほど走っただけなのにもうヘロヘロになって、終わりにはママチャリにスイスイ追い越される始末だった。
これではならじと、せっせとジム通いに精を出し、筋肉を電気刺激して鍛えるEMSなる器械を購入した。これはすさまじい器械で、フルパワーの4分の1位の電流しか流さないのに私の大腿四頭筋は悲鳴を上げるぐらい強く収縮する。
トレーニングの甲斐あって、連休前には何とか数日のツーリングは出来そうに感じられるぐらいになった。
4/27 午前中の仕事が終えると、すぐ新大阪へ。新幹線で新下関へ。残念、今日からGW中はジパング倶楽部の割引が使えない。5:30新下関を出発して、10kmほど走って下関市街でビジネスホテルに宿泊する。夕食は近くの居酒屋で地の魚と冷酒「南風泊」。
4/28 ホテルを6時過ぎ出発。海岸沿いを東へ。伊藤博文と李鴻章が会談した春帆楼の前を過ぎると赤間神宮だ。ちょっと寄ってお賽銭をあげる。平家一門の墓もお参りする。
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赤間神宮 |
平家一門の墓 |
関門海峡 |
関門人道トンネルを渡って九州へ入る。エレベーターで上がると、ここは和布刈神事で知られる和布刈(めかり)神社。少しウロウロして県道25号線に入り南下するが、交通量の多さに辟易して小道をとって西へ進み、JR日田彦山線に行き当たる。
線路に沿って南下する。国道322に合流すると、左側の山並みは日本三大カルストの一つ平尾台だ。ちょっと登ってみたいが、今回は先を急ぐ。金辺トンネルを越えると彦山川の流れに沿って走る。R322から県道52に入ると大任町。「花とシジミの町」と看板が出ている。この辺りの彦山川の川原でシジミが自生しているらしい。海からは相当上流なのに不思議。
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関門人道トンネル |
日田彦山線 |
平尾台を望む |
やがて彦山駅。ここは以前、英彦山から小石原にR500を通ったとき寄ったことがある。今回は日田彦山線のトンネルの上の斫石峠(620m)を越える。彦山駅から400mの上りだ。新緑の中の静かな山道、車の通行は殆どない。峠からは一気の下りで筑後川に行き当たる。左に取ればやがて日田の町である。この町も2、3度訪れたことがあるので、今回は咸宜園の前から豆田町を一周して、R212に入り大山川に沿って南下する。松原ダムへ上がると今日の泊まりの予定、杖立温泉はもうすぐだ。
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彦山駅 |
斫石峠 |
峠から下る |
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筑前岩屋駅のツツジ |
大山川に沿って杖立温泉へ |
杖立温泉 |
6:00 杖立温泉着。適当に宿を探して転がり込むが、この時刻では夕食はなし。取りあえず温泉に浸る。ここは蒸し風呂も有名だ。蒸し風呂で今日の筋肉のこわばりをすっかりとほぐすことが出来た。最近は近くの黒川温泉に客を奪われているようだが、温泉はここが勝っている感じがする。一軒だけある食堂で夕食。山菜の天ぷらが旨かった。
走行距離:140km
4/29 6時過ぎ出発。昨夜の通り雨は嘘のように晴れ上がっている。R212を一路南下し、阿蘇を目指す。
下城滝(なべかま滝)。ミニ瀑布という感じでなかなか豪快。
北里柴三郎生誕地の案内がある。行ってみたいが、ちょっと脇道に入らねばならないので、今度黒川温泉にでも来たときに行ってみよう。
小国の街のコンビニでおにぎり1個と味噌汁の朝食。街を過ぎると道は阿蘇外輪山に向かってジリジリと高度を上げる。大観峰まで500mほどの上りだ。途中、展望台から南に涌蓋山、久住連山がきれいに見える。高度を上げるにつれ、周りは樹林帯から草原、牧場となる。
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杖立川の流れ |
下城の滝 |
涌蓋山・久住連山遠望 |
9:30 大観峰到着。駐車場にはオートバイが数十台並んでいる。九州とか北海道に行くとライダーがこんなに多いのかと感心する。サイクリストはここではマイナーな存在である。自転車はわずか3台。眼下の阿蘇盆地、正面の阿蘇主峰、根子岳の景観を十分楽しむ。 阿蘇盆地へ急降下。阿蘇神社が次の目的地だ。阿蘇へは何度か来ているが、今まで参拝の機会がなかった。日本有数の古さを誇る神社だけにさすがに荘厳である。御札を頂いて、今回の旅の無事を祈る。
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大観峰から阿蘇盆地を望む |
阿蘇神社 |
阿蘇神社境内の白藤 |
街を少し外れると、今回の旅の目玉、R265が始まる。ここから宮崎県小林市まで山中200kmを走る。最初の峠は高森峠だと思っていたら、手前にもう一つ箱石峠があった。調査不足だ。道は根子岳の東側の肩へと高度を上げる。根子岳の峨々とした山容を眺めながらの走行である。400mほど上って箱石峠に到着。これから下りかと思っていたら、道はまだ上ってゆく。最高点を過ぎるとようやく快適な下りとなる。車の交通量は少ない。途中、ピンクの花盛りの果樹園がある。リンゴのように見えるが? 下りきった所の食堂で肥後名物だご汁定食を食べる。美味しい!! ただのスイトンではあるが、ダシが何とも言えぬ。今回の旅で最高の味だった。
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根子岳 |
高森へ下る途中の新緑 |
リンゴの果樹園? |
高森峠への上りは旧道をとる。ここは桜の名所らしいが、いまは散り残りの木が所々にあるのみだ。大した登りもなく、トンネル手前で新道と合流する。旧道の峠への道はうっかり通りすぎてしまった。馬見原までの下りは細かい上り下りを繰り返しながら続いている。途中のスーパーで今晩の夕食と酒を買う。これでどこでも寝ることが出来る。
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高森峠旧道 |
高森峠の上りから振り返る |
峠を過ぎた所の展望台 |
馬見原。ここは以前、通潤橋から高千穂峡へ抜けたとき通ったことがある。今日中に国見峠にたどり着きたいので、ソソクサと通り過ぎる。
南下を続けると、国見トンネル入口に到る。新道はトンネルで宮崎県へと入って行くが、ここは旧道の国見峠を越えたい。標高差はダラダラ上りの400mちょっとで大したことはない。一時間ぐらいのものだろう。入口には路肩崩壊のため通行止めの標示があるが、例によって無視して進む。自転車には関係ない。舗装はしてあるが、落石、落葉で荒れた道を上ってゆく。一時間ちょっとで峠に到着。標高1150m、今度の旅のの最高地点だ。6時半、峠の道路脇にテントを張る。
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国見峠への登り |
峠にてキャンプ |
国見峠 |
テントを張り終わった頃、南側からサイクリストが上がってきた。前後にバッグを付けた重装備である。思わずぎょっとして顔を見合わせる。向うもビックリしたようだ。10分ほど話をする。ちょうど私と反対向きのコースを取っているようだ。シマノに勤務する若者でシクロ・クロス競技で全国的に活躍している人らしい。若いときから、全国をツーリングしているとのこと。
会話を終えると、さっと峠を下っていった。エッ、もう7時を過ぎているのに、これからあの山道を下るの? 怖いことをする。(後日、メールで尋ねると、峠を下って馬見原でキャンプをしたとのこと。やはり、やることが凄い。)
ノンビリと酒を飲みながら、夕食を取る。
走行距離:110km
4/30 今日も快晴である。6:30 出発。国見峠から南へと下ってゆく。ガイドブックにはガードレールもない悪路と書いてあったが、ガードレールはちゃんと付いているし、比較的下りやすい道だ。600m下ってR265と合流する。
8:00 上椎葉到着。鶴富屋敷はまだ開いていないので、外から見るだけ。重要文化財ではあるが、どこの田舎にでもある旧家のようで、中を見学するほどのことはないかも知れない。集落の中の道をブラブラ歩く。土産物屋が開いているので中を覗く。いろいろ試食させて貰い、お茶を頂く。何か買わなくてはと、椎葉納豆(納豆に野菜を刻み込んだもの)を選ぶ。外に出て野菜の行商のお婆さんの店を覗く。ここでは柚子の味噌漬けを買う。一袋3個で200円。3個も食べられるかな(結局一個は家への土産となった)?
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国見峠を下る |
椎葉鶴富屋敷 |
椎葉集落 |
上椎葉ダム沿いに走ると、飯干峠への上りとなる。約500mの上り。峠の標高、1050m。比較的楽な上りであった。一ツ瀬川の美しい流れと新緑の中を走ると米良の集落に着く。ここからは数十キロ先までもう店はない。酒屋で酒を仕入れる。
尾股峠の上りにかかると、いよいよ無人地帯へと入って行く。途中、名残りの山桜が迎えてくれる。この峠の上りはきつい。何度か下りて押したくなるのを、必死で頑張る。4時、峠にやっとの事でたどり着く。
尾股川を下ると田代八重(たしろばえ)ダムの湛水域に入り、車の全く通らない道を快調に飛ばす。ダムで出来た道は広くて舗装状態も良好である。やがてダムが見えてくる。ここまで所々に廃屋があるだけで全くの無人地帯である。わずかにダムの管理の人がいるだけである。この辺り、昔は集落があり、小学校もあったようであるが、ダムで水没したのであろう。
輝嶺峠の上りにかかる。6:30 峠に到着する。少し尾根を走る林道に入り、テントを張る。南側の眺望が素晴らしい。
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飯干峠 |
峠の下り |
一ツ瀬川 |
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尾股川源流 |
尾股川 |
田代八重ダム |
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輝嶺峠への上りで見た名残の桜 |
山藤 |
輝嶺峠展望 |
今日の夕食は手持ちの乾燥食品と椎葉で買った柚子の味噌漬け。酒はたっぷりある。
走行距離:115km
5/01 6時出発。輝嶺峠から坂を下りきると、平地に出る。こんな広い所は阿蘇盆地以来だ。小林市須木である。あと一つ、軍谷峠を越えればR265の終点、小林市街だ。軍谷峠は現在、トンネルで抜けるがここは旧道を通りたい。入口は分りにくいが、その辺りの人に聞いて進む。最近舗装したようで走りやすい道だ。道から眺める山並みが美しい。旧道トンネルを抜けてまたR265に戻る。
町へ下っていく途中に、「陰陽石」と書いた標識がある。ちょっと寄ってみよう。道端に「田の神」が立っている。九州の南に来たことを実感する。岩の河岸に実物そっくりの巨大な陽物が立っている。なるほど、納得。陰はと見るがはっきりしない。
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輝嶺峠でみたユズリハ |
須木の平地 |
軍谷旧トンネル |
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軍谷峠から南の展望 |
小林市仲間の田の神 |
陰陽石 |
国道から村の中に入ってみると、家々の入口にたっぷりと白い粉(石灰?)が撒かれている。ああそうだ。最近、宮崎県で口蹄疫が流行しつつあるとニュースで言っていた。(この紀行を書いている現在、大流行化して大変なことになっているようだ。)土地の人に聞いてみると、今はこの辺ではまだ発生していないが大変心配だといっていた。石灰が効果あるかどうか、あまり信用していない様子だった。
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農家の門前に撒かれた消毒薬 |
小林市。長く険しかった R265 もとうとう終点だ。R221に入る。次の町は都城だが、高千穂の御池に回ってゆこう。R223に入ってしばらく行ったところに果物を売っている露店がある。ジューシーオレンジを一個試食させてくれる。旨い。渇いた喉に水分たっぷりの甘さと酸っぱさがしみこんでゆく。小さいメロンを一個買うとオレンジと日向甘夏を一個ずつおまけにくれた。
狭野神社。神武天皇の生誕地だそうな。ちょっと寄ってお参りする。
御池。高千穂峰をバックしした池の佇まいは神秘である。先ほど買ったメロンを食べる。オレンジほど旨くない。周りはライダーが十台ほど。サイクリストは私一人である。ここから都城までは大体下り道で快調に走る。
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狭野神社 |
高千穂峰 |
御池 |
都城市。昼食に全国チェーンの店でうどんを食べる。
次の目標は鹿屋である。先ほど食べたウドンで胃が苦しい。カロリーを考え普段食べたことのない大盛りを食べたものだから、胃が一杯になっている。アー、もう駄目だ。途中の道の駅で一時間ほど昼寝する。少し楽になったので、トロトロと走り出す。
串良川を渡り、少し上ると宏大な台地に出る。もう少しで鹿屋だ。6時、鹿屋市街に入る。宿を探す元気もなく、一番高く目立つホテルに入る。本当はもう少し先まで進んでおきたかったのだが、佐多岬まで嫌な距離を残してしまった。
夕食はホテルで生ビールとちょっとしたもの。宮崎地鶏の炭火焼き。こんな炭臭くて味気ないものがなんで名物なんだろう。
走行距離:127km
5/02 荷物は宅急便で家に送り、身軽になって佐多岬を目指す。6時出発。鹿屋というと特攻隊と体育大学ぐらいしか知らないし、歴史的な遺物はあんまりなさそうなので素通りしても未練はない。やまんなか縦断となると大隅半島の真ん中を佐多岬まで繋がっている県道68号線しかない。
鹿屋の近くでは海抜10mほどであるが、南下するにつれて徐々に高度が上がってくる。日差しがきつい。途中、新しいバイパスが作られており、旧道よりは大分楽なのだろうがそれでも上りは上り、ひいひい言いながら上ってゆく。最高地点590m。峠で大阪から持参していた桃の缶詰を開ける。
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大隅半島山中を行く |
路傍の野草 |
野の花 (ヒメレンゲ) |
ここから、海岸まで急降下する。突然、県道が途切れて細い道が3本に分れる。まっすぐ下ろうと真ん中の道をとる。これがすぐ車も通れないような小道でしかも急勾配の下りとなる。100mほど歩いてゆくと車道に出て、すぐ郡の集落に下る。この辺りは以前、志布志から海岸沿いに佐多岬に出たときに通った記憶がある。
ここからは海岸沿いを集落伝いに上った陸だったりしながら岬を目指す。海は門司で見て以来だ。
佐多馬籠。以前はここから先は専用バスに乗らなければ岬まで行けなかったが、今は開放されている。これでは先まで行かざるを得ない。
12時丁度、佐多岬の駐車場到着。トンネルの先は徒歩のルートであるが、以前訪れたとき見ているので、今回はパス。是非に二度見なければと言うほどのことはない。
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佐多半島 門司以来の海 |
佐多半島先端 トンネルの先は徒歩のみ |
佐多岬駐車場のガジュマル樹 |
佐多馬籠に引き返し、峠越えで佐多伊座敷へ。2時。ここで今回のサイクリングはお終い。志布志発のフェリーは5時出発なので、自転車で走っていては間に合わない。昨日の腹痛のツケだ。タクシーを奮発せざるを得ない。
走行距離:88km