句集「水脈」より

 

 私の父が徳島県海部郡鞆奥町にいたとき、「鞆奥ひまわり会」の句集「水脈」第一輯に掲載された俳句を紹介します。編は昭和23年です。


 
街騒

 

ふくれ走るバス香水は誰のもの

 

梅干すや河原は白き炎あぐ

 

ひでり霞砂丘に広く網干して

 

花糸瓜子はひそやかに砂遊び

 

たばこ火をかこふ掌の色夜の秋

 

街騒のはるけき昼をもみ乾く

 

もず鳴いて遠き家並に灯の入りぬ

 

くすり店秋りんの昼ともし居り

 

咳きて口なまぐさくなりにけり

 

大根洗ふ水輪家鴨に及び来ぬ

 

中の子の咳もるる路地深く

 

小紙幣たもとぼこりとありし凍夜

 

電話の眼めぐらす芽木のにほふ朝

 

街白く東風は小さきつむじなす

 

朝雲雀濤音を曳き昇りつぐ

 

花曇りジンタ幼き夢率いて

 

麦田中藁塚明るき点をなす

 

海の照り春雲ついに崩れざる

 

都電スト

都大路春夕焼けをはばむものなし

 

女の視線背にし薄暑の路地曲る