2001年4月

 まず、お知らせしたいことは、小生自分で詩を作り始めました。まだ10首に足りませんが、作っていると平仄合せや、韻を踏むのにクロスワードのような面白さがあります。
 さて四月は、名山にしましょう。中国で山といえばまず五岳です。五岳とは東岳(泰山)、西岳(華山)、南岳(衡山)、北岳(恒山)、中岳(嵩山)ですが、高さでは第三位ですが、格としては泰山が最も崇められています。それは、歴代皇帝が封禅の儀式を行なう山であったからです。私自身が一番登ってみたいのは華山ですが。中国には、他にももっと高い山や、美しい山はたくさんありますが、この五岳が選ばれたのは、人里近く、見上げて秀麗だったからでしょう。その他、黄山、廬山、峨眉山などがよく詩に出てくるようですね。
 ただ、山を主題にするとどうしても叙景の詩が多くなり、少し面白味に欠けるのはしかたありませんね。


杜甫「望嶽」
まずは泰山です。古来からの名山ですから、いろんな人が詩を作っています。その中から、青年時代の杜甫の詩を。この時、杜甫は登っていないようですが、その後、果して頂上を征服したのでしょうか?

岱宗夫如何   岱宗(たいそう)夫(そ)れ如何(いかん)
齊魯青未了   斉魯 青未だ了(おわ)らず
造化鍾神秀   造化 神秀を鍾(あつ)め
陰陽割昏暁   陰陽 昏暁を割(わか)つ
盪胸生曽雲   胸を盪(うご)かす 曽雲の生ずるに 
決眥入歸鳥   眥(まなじり)を決す 帰鳥の入るに
會當凌絶頂   会(かなら)ず当に 絶頂を凌ぎて
一覧衆山小   一覧 衆山を小とすべし

泰山とはどんな山なのか。山の青は麓の斉と魯の国に広がって果てしがない。造化の神が技を尽くして作り、その頂上は南と北、日暮れと暁を分けているのだ。重なり合った雲が湧くのに胸は揺るがされ、巣に帰る鳥が消え去るまで目を一杯に開いて見入るのだ。いつか必ず頂上にたって、周りの山々の小さいことを実感してみたい。


鄭玉「游黄山」
次は黄山です。ここの岩と松の景色は、山水画そのもので、今中国で日本人がもっともよく訪れている山ではないでしょうか。華山と並んで小華山と称されています。鄭玉は元朝に仕えた人です。晩年、郷里へ引退しますが、明軍が迫ってきた時に、二朝に仕えずと縊死します。黄山のある安徽省出身ですから、お国自慢丸出しで、華山などは問題にならんと云っています。

江左諸峯罕出群   江左の諸峯 群を出でて罕(まれ)なり
誰云華岳與平分   誰か云う 華岳 与に平分
幾千百澗流蒼玉   幾千百澗 蒼玉を流し
三十六峯生白雲   三十六峯 白雲を生ず
幽谷高人抱眞獨   幽谷の高人 眞独を抱き
荒崖野草剰芳芬   荒崖の野草 芳芬(ほうふん)を剰(あま)す
幾囘獨向風前立   幾回か独り向って 風前に立ち
夜半吹簫天上聞   夜半の吹簫 天上に聞く

長江の東(江左)に峯々が群を抜いて突き出ている。華山と並ぶなんて、いったい誰が云ったのだ。幾千もの谷には碧玉のような水が流れ、三十六峯には白雲が湧く。この深山幽谷には徳の高い隠者が住んで、世俗からは超越しており、荒々しい崖には野草が香りを溢れさせている。何度となく独りで風に向って立ち、夜半に簫の笛の声を聞いているとまるで天上にいるようである。


李白「望廬山瀑布」(廬山の瀑布を望む)
廬山は長江の南に位置し、やはり名山として知られています。陶淵明、白居易の詩で今までにも紹介しました。
李白は道教に心酔していましたから、仙人の住むと考えられた名山には数多く登って、詩を作っています。この詩は教科書にも出ている有名なものですから、皆さんも思い出したでしょう。滝を歌った詩ではこれの右に出るものはないといわれます。

日照香爐生紫煙   日は香炉を照して紫煙を生ず
遥看瀑布挂前川   遥かに看る瀑布の前川に挂(か)かるを
飛龍直下三千尺   飛龍直下 三千尺
疑是銀河落九天   疑うらくは是れ銀河の九天より落つるかと


李白「登太白峯」
太白山は長安の南方に連なる秦嶺山脈の主峰で3767mと、富士山より9mだけ低い。従って、五岳よりはるかに高い。道教の聖なる洞窟が山頂にあり、李白としては見逃せない山です。この詩の李白はもうすっかり仙人になった気分ですね。

西上太白峯   西のかた太白峯に上り
夕陽窮登攀   夕陽 登攀を窮む
太白與我語   太白 我と与に語り
爲我開天關   我が為に天関を開く
願乘泠風去   願くば冷風に乗りて去り
直出浮雲間   直ちに浮雲の間に出で
擧手可近月   手を挙げて月に近づく可く
前行若無山   前行して山無きが若(ごと)からん
一別武功去   一たび武功に別れて去らば
何時復更還   何れの時か復た更に還らん

泠風:サンズイの字。穏やかな風

長安(?)から西の方にある太白山に登って来、夕日の沈む頃、やっと頂上に着いた。暗くなって、太白星(金星)は私に話しかけ、私のために天の関所を開いてくれた。願わくば、穏やかな風に乗って、真っ直ぐに雲の上に出て、手を挙げれば月に触れんばかりに近づき、山など見えないほどの高みを飛行したい。ひとたび、この武功(太白山麓の町)の地を飛び去って登仙すれば、いつまたこの地へ帰ってこようか。


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