2002年6月

四月下旬に北京へ観光旅行に行ってきました。その時、瑠璃廠の本屋で「范成大詩選」という本を買ってきました。残念ながら、簡体字で書かれていますがこれを機に簡体字を覚えてしまおうと思っています。百か二百、覚えれば日常の役に立つのではと思います。
それで今月は范成大の詩を御紹介したいと思います。范成大は陸游と並び称せられる南宋の詩人です。陸游よりも一歳年下ですが、陸游四川省在任中の上官でした。彼は若い時金国へ使いして名声を挙げ、宰相の地位にまで昇ります。吉川幸次郎は「陸游の詩が時に行儀の悪さを感じさせるのに比べて、彼の詩は上品で端正である」と言っています。逆に言うならば、陸游ほどは面白くないと言うことになるのかもしれません。
彼の詩のうち、日本人に江戸時代から親しまれて来たものに、七言絶句六十首の連作「四時田園雑興」があります。これは彼が六十を過ぎて退官後、蘇州郊外の別荘で、農村の生活を詠ったものです。その中から、晩春から初夏にかけての数首を御紹介します。淡々とした詠いぶりで、詩の中に自分自身が入ってくることが少ない点が、陸游と違っているように思います。
 以下の詩の一部は、簡体字から繁体字へと変換しましたので原書とは違っているかもしれません。

四時田園雑興 范成大

胡蝶双双入菜花  胡蝶 双双 菜花に入る
日長無客到田家  日長くして 客の田家に到る無し
鶏飛過籬犬吠竇  鶏飛んで籬を過ぎ 犬は竇(あな)に吠ゆ
知有行商来買茶  知んぬ 行商の来りて茶を買う有るを

蝶々が幾つがいかひらひらと菜の花畑の中に飛んで入る。晩春の日長、こんな田舎家には客の来ることもない。
ところが突然、鶏が飛んで垣根を越え、犬が穴の中から吠えだした。どうやら茶を買う行商人が来たようだ。
竇:狗竇(くとう)犬の出入用に垣根の下に掘った穴


烏鳥投林過客稀  烏鳥 林に投じて 過客稀なり
前山烟暝到柴扉  前山 烟暝くして 柴扉に到る
小童一棹船如葉  小童 一棹 船葉の如し
独自編闌鴨陣帰  独り自ら 闌を編みて 鴨陣帰る

夕暮れ時、鴉や鳥たちもねぐらの林へ帰る頃ともなると、通り過ぎる客もほとんどいなくなり、前山の夕靄が我が家の柴の戸の辺りまで漂ってきた。
向こうの川では子供が小舟に棹さしているのが木の葉のようである。その川面に、編隊を組んで、鴨の一陣が帰ってきた。
編闌:意味がよく分かりませんが、仮に「編隊を組んで」としました。


小婦連宵上絹機  小婦 連宵 絹機に上る
大耆催税急於飛  大耆 税を催すること 飛ぶよりも急なり
今年幸甚蚕桑熟  今年 幸甚なり 蚕桑熟し
留得黄絲織夏衣  留め得たり 黄絲の夏衣を織るを

若い嫁が毎晩機織りに励んでいる。村長さんが毎晩のように税を厳しく催促する。
しかし、今年は幸いなことに桑の葉がドッサリ採れて、黄金色の絹糸を夏の着物のために取っておくことができた。


昼出耘田夜績麻  昼は出でて田を耘(くさぎ)り 夜は麻を績む 
村荘児女各当家  村荘の児女 各々家に当る
童孫未解供耕織  童孫 未だ耕織に供するを解せざるも
也傍桑陰学種瓜  也(また)桑陰に傍うて 種瓜を学ぶ

昼は田に出て草取り、夜は麻を紡ぐ。村では男の子も、女の子も大事な家の働き手だ。
小さな子供は、まだお手伝いはできない。それでも、桑の葉陰で瓜を植える真似事をしている。

参考図書
范成大詩選 周汝昌選注 人民文学出版社
中国名詩選 松枝茂夫編 岩波文庫
宋詩概説 中国詩人選集二集 吉川幸次郎著 岩波書店