2002年 11月
今月は錦秋と題して、紅葉の美しさを歌ったものを集めようとしましたが、探してみると意外と少ないものです。まず、頭に浮かんでくるのは、杜牧の「山行」でしょうが、これはすでに1999年10月の紹介済みです。しかし、この詩にしても、私には少々違和感があります。結句「霜葉紅於二月花」の花は梅か桃なのでしょうが、全山真っ赤な楓の紅葉を見慣れている日本人にとっては、あまりに当たり前すぎて人口に膾炙されているほどには感動できません。中国では黄葉が普通でなのでしょうか? 「楓」も紅葉するようですが、日本のカエデとは異なる木のようです。
王勃 「山中」
初唐の天才詩人。2001年2月に紹介済みです。
長江悲已滞 長江 已に滞れるを悲しみ
万里念将帰 万里 将に帰らんことを念う
況属高風晩 況んや 高風の晩に属するをや
山山黄葉飛 山山 黄葉飛ぶ
白居易 「送王十八帰山、寄題仙遊寺」
「林間煖酒焼紅葉」は、日本人にとっては平安時代からあまりにも有名な一句です。
曽於太白峰前住 曽て太白峰前に於いて住み
数到仙遊寺裏来 数しば仙遊寺裏に到りて来る
黒水澄時潭底出 黒水澄む時 潭底出で
白雲破処洞門開 白雲破るる処 洞門開く
林間煖酒焼紅葉 林間に酒を煖めて 紅葉を焼き
石上題詩掃緑苔 石上に詩を題して 緑苔を掃う
惆悵旧遊無復到 惆悵す 旧遊復た到る無きを
菊花時節羨君廻 菊花の時節 君が廻るを羨やむ
劉長卿 「酬李穆」
盛唐の人。李白、杜甫などと同年代の詩人。剛直な人柄のため、讒言にあって左遷されたりもしたが、県知事クラスの官位まで上がった。禅にも心を寄せ、詩人としての名声もたかい。
孤舟相訪至天涯 孤舟 相訪うて 天涯に至る 小舟ひとつで、こんな天の果てまでよく尋ねて来てくださった。
万転雲山路更賖 万転の雲山 路更に賖(はるか)なり
曲がりくねった雲中の山道は大変遠かったことでしょう。
欲払柴門迎遠客 柴門を払いて遠客を迎えんと欲するも 庭や門を掃除して、遠くから来られた貴方を迎えようとしたのですが
青苔黄葉満貧家 青苔 黄葉 貧家に満つ 貧乏暮らしのこととて、青苔や黄葉が一杯でどうしようもない。
六如 「嵯峨別業四時雑興 三十首」
近江出身の天台宗の僧侶。親交のあった菅茶山より14歳年長。若い頃は唐詩に影響された詩を作ったが、後に宋詩風にかわる。ここに紹介した詩を含む「嵯峨別業四時雑興 三十首」は彼が京都愛宕山頂にある勝地院の住職となって、日常を麓の嵯峨で過ごしていた頃の自然を詠ったものである。
雄山数里若比隣 雄山 数里 比隣の若し
白路過村循澗浜 白路 村を過ぎて 澗浜に循(そ)う
上壁苔多知店老 壁を上る苔多くして 店の老いたるを知り
齧沙水退喜橋新 沙を齧む水の退きて 橋の新たなるを喜ぶ
踏雲草履旋沾足 雲を踏む草履 旋(すす)みて足を沾(ぬ)らし
慮雨莎衣帯在身 雨を慮んばかりて莎衣 帯びて身に在り
裹寺錦楓千万樹 寺を裹(つつ)む錦楓 千万樹
賞秋人却夥於春 秋を賞する人は却って 春よりも夥だし
雄山:紅葉の名所・神護寺のある高雄
莎衣:ハマスゲで作った衣。雨具?
参考図書
中国文学歳時記(秋) 黒川洋一他編 同朋舎
中国詩人選集13 白居易 下 高木正一注 岩波書店
中国古典選 三体詩(1) 村上哲見 朝日文庫
江戸詩人選集 第四巻 「菅茶山・六如」 黒川洋一注 岩波書店