2004年7月
毎日、蒸し暑い日が続いています。日中はちょっと外へ出る気もしない季節となりましたが、夕暮れ時、少し涼しくなって散歩に出ますと、ご近所の庭々には鮮やかな夏の花が咲き誇っています。そこで今月は夏の花を詠った詩を集めてみました。
夏至 趙秉文
趙秉文は金代(宋と元の間)の詩人です。葵花はこの時代ですから、ヒマワリではなくタチアオイの花と思われます。
玉堂睡起苦思茶 玉堂に睡起して 苦(しきり)に茶を思う
別院銅輪碾露芽 別院の銅輪 露芽を碾(ひ)く
紅日転階簾影薄 紅日 階に転じて 簾影薄く
一双蝴蝶上葵花 一双の蝴蝶 葵花に上る
玉堂(翰林院)で居眠りから醒めると、しきりに茶が飲みたくなった。そこで別棟で摘み立ての茶を銅製のひき臼で粉にした。
真っ赤な太陽が、階段の上にうつると簾の影も見えなくなり、ひとつがいの蝶々がタチアオイの花の上をひらひらと舞っている。
山亭夏日 高駢
高駢は晩唐の詩人です。武人としても優れ、安南を征し、各地の節度使を歴任し、黄巣の乱の平定に功があった。後、部下に暗殺された。この薔薇は野バラなのでしょう。
緑樹陰濃夏日長 緑樹 陰濃(こま)やかにして 夏日長し
楼台倒影入池塘 楼台 影を倒(さかしま)にして 池塘に入る
水精簾動微風起 水精の簾動いて 微風起り
一架薔薇満院香 一架の薔薇 満院 香し
道旁店 楊万里
楊万里については既に一度紹介しております(2001.07)。紫薇花はサルスベリ。
路旁野店両三家 路旁の野店 両三家
清暁無湯況有茶 清暁 湯無し 況んや茶有らんや
道是渠儂不好事 是れ 渠儂(かれ)は好事ならずと道(い)わば
青瓷瓶挿紫薇花 青瓷の瓶に挿す 紫薇の花
道のほとりに二、三軒の茶店が並んでいる。清々しい早朝には、まだ湯が沸いていないし、まして茶などは有るはずもない。
さても主人は風流を解さないことよ、というならばどうであろう、この店先の青磁の花瓶に生けてあるサルスベリの花の見事なことは。
臨湖亭 王維
当時、芙蓉とは蓮の花をいいます。富士山を芙蓉峰といいますが、これも山の姿を蓮の花が開いた様子になぞらえたものです。
軽舸迎上客
軽舸 上客を迎え 軽やかな船で大切な客を迎えて、
悠悠湖上来 悠悠 湖上に来る 悠々とこの臨湖亭にやってきた。
当軒対樽酒 軒に当りて 樽酒に対すれば 軒端で酒盛りを始めると、
四面芙蓉開 四面 芙蓉開く 周りは一面の蓮の花。
参考図書
漢詩歳時記 渡部英喜 新潮選書
漢詩歳時記(夏) 黒川洋一他編 角川書店