2004年9月
先月に続いて、王安石の詩を取り上げました。秋の風景を詠んだもの3首挙げてみました。
散髪一扁舟
散髪一扁舟 散髪 一扁の舟 官を退いて 小舟一つ
夜長眠屡起 夜長くして 眠 屡しば起く 夜長に目覚めがち
秋水瀉明河 秋水に 明河瀉(そそ)ぎ 秋の水に天の川が注ぎ込み
迢迢藕花底 迢迢たり 藕花の底(した) 遙かに蓮の花の下にまで映っている
愛此露的皪 此の露の的皪(てきれき)たるを愛し キラキラとしたこの蓮の露をめで
復憐雲綺靡 復た雲の綺靡(きび)たるを憐れむ 雲の華やかな美しさを愛おしむ
諒無與歌絃 諒(まこと)に歌絃を与にするもの無けれど 一緒に音楽を奏ですものはいないが
幽獨亦可喜 幽独 亦た喜ぶべし 静かな孤独もまた喜ばしい
秣陵道中口占 二首 其の二
歳熟田家楽 歳熟(みの)って 田家楽しみ 稲がみのって農家は楽しんでいるとき
秋風客自悲 秋風 客 自ずから悲しむ 秋風に旅人は悲しみにそそられる
茫茫曲城路 茫茫たり 曲城の路 茫々とひろがる曲城のみち
帰馬日斜時 帰馬 日斜めなる時 馬に乗って家路をたどる日暮れ時
江上
江北秋陰一半開 江北の秋陰 一半開くも
暁雲含雨却低回 暁雲 雨を含みて 却って低回す
青山繚繞疑無路 青山 繚繞して 路無きかと疑うに
忽見千帆隠映来 忽ち見る 千帆の隠映して来るを
大河の北の空を覆っていた秋の雲が半ば開いたとおもったが、雨気を含んだ暁の雲が低く立ちこめた。
青々とした山々が蛇行する川を取り囲み、航路が途絶えてしまうかと思うと、忽ち無数の帆影が見え隠れしながら近づいてくるのが見えた。
参考図書
中国詩人選集二集 王安石 清水茂注 岩波書店
宋詩選注 銭鍾書著 東洋文庫 平凡社