2004年10月
「月」といえば「秋」というのは、古来から中国でもあったようで、旧暦八月十五日の中秋節は唐代より盛大に祝われていたようです。それで今月は「秋月」と題して詩を集めてみました。この題の詩は選ぶのに困るほど有りますが、そこは適当に。白楽天の「三五夜中新月色、二千里外故人心」というこの題にピッタリの詩は既に2001年8月に挙げてあります。
李白 峨眉山月歌
「秋月」といえば、李白のこの詩をはずすわけにはいかないでしょう。七言絶句28字のうち、12字までが地名というちょっと変わった詩ですが、それを煩わしく感じさせないのは、さすがに李白といった感じです。李白二十才代の詩といわれています。
峨眉山月半輪秋 峨眉山月 半輪の秋
影入平羌江水流 影は平羌江水に入りて流る
夜発清渓向三峡 夜に清渓を発し 三峡に向う
思君不見下渝州 君を思えども見えず 渝州に下る
峨眉山に上る秋の半月、その光は麓の平羌江にさし入って水と共に流れ去る。
私は今夜、舟で清渓を出発して三峡へと向かった。月よ、君のことを思いながら姿を見ることが出来ぬまま、渝州(重慶)まで下ってきたのだった。
蘇軾 中秋月
暮雲収尽溢清寒 暮雲 収め尽くでぃて 清寒溢る
銀漢無声転玉盤 銀漢 声無く 玉盤を転ず
此生此夜不長好 此の生 此の夜 長くは好からず
明月明年何処看 明月 明年 何れの処にか看ん
夕暮れの雲が消え尽くして清らかな寒気が溢れる頃、白銀に輝く天の川に沿って玉盤のような満月が音もなく転がり移ってゆく。
この私の人生も、この一夜もこのまま続くものではない。明年はこの明月をどこで見ていることだろう。
高啓 夜投西寺
江月上秋衣 江月 秋衣に上り 江月が秋の衣を照らす夜
来敲遠寺扉 来り敲く 遠寺の扉 遠く西寺にやってきて門を敲く
棲禽驚客至 棲禽 客の至るに驚き 巣に休んでいる鳥は人がやってきたのに驚き
睡僕訝僧帰 睡僕 僧の帰えるかと訝る 眠っていた寺男は僧が帰ってきたのかと怪しむ
鐘度行廊尽 鐘は行廊を度りて尽き 鐘の音は回廊を渡っていって聞こえなくなり
燈留俗院微 燈は俗院に留りて微かなり 灯火は宿坊に薄暗く点されている
非無招旅館 招旅の館 無きに非ざるも 旅館がないわけではないが
禅寂願相依 禅寂 願わくば相依らん 寺の静寂を愛するので宿を借りたのだ
良寛 無題
瞑目千嶂夕 瞑目す 千嶂の夕 山々に夕暮れが迫る頃目を閉じて座禅する
人間萬慮空 人間 萬慮空し 人の世の雑事から心を空しくする
寂寂倚蒲団 寂寂 蒲団に倚り 寂々として座布団に座り
寥寥対虚窗 寥寥 虚窓に対す 寥々として何もない窓に対する
香消玄夜永 香は消えて 玄夜永く 香は消え去って暗い夜は長く
衣単白露濃 衣は単にして 白露濃やかなり ひとえの衣に白露がびっしりと付いた
定起庭際歩 定より起って 庭際に歩めば 座禅から立って庭の端を歩けば
月上最高峰 月は上る 最高峰 丁度一番高い山の上に月が昇ってきた
参考図書
唐詩選 前野直彬注解 岩波文庫
中国名詩集 松浦友久選 朝日文庫
漢詩への誘い 歴史と風土(金陵の巻) 石川忠久 NHKカルチャーアワーテキスト
良寛詩集 大島花束・原田勘平訳注 岩波文庫