2005年2月

 昨年11月に「老いを詠う」と題して、老年の心境を詠った詩を集めましたが、今回は青年がテーマです。楽府題に「少年行」というのがあります。楽府というのは漢代の音楽を司る役所のことで、ここで当時のいろいろな歌曲を収集しました。当然、当時は音楽にのせて歌われていたのですが、後代になると音楽とは関係なくその題だけを借りて作詩することが流行します。「少年行」というのは、都の貴公子の豪奢な遊び振りや遊侠の若者の男伊達を詠ったものです。

唐代、特にその前半、の支配層は基本的には貴族で、科挙の制度はありましたが、貴族の子弟の方が重く任用されていました。従って、当時の長安の盛り場にはそういった貴公子が遊び歩いていたのでしょう。

 

崔国輔 「長楽少年行」

 杜甫より、二十歳ぐらい上でしょうか、唐代の詩人。

 

遺却珊瑚鞭  遺却す 珊瑚の鞭    珊瑚の鞭を持って出ることを忘れたので

白馬驕不行  白馬 驕りて行かず   白馬がわがままをおこして、進もうとしない。

章臺折楊柳  章台 楊柳を折る    ではと章台の街の柳の枝を折り取った。

春日路傍情  春日 路傍の情     ふと起こる春の日、色街での路傍のあだし心。

 

 章台:長安の街の名。遊里だった。

 折楊柳:柳を折るといえば、別離の意味が有名だが、もう一つ、男女の情を意味する。

 

呉象之 「少年行」

 伝不詳。この詩は唐詩選に見える。

 

承恩借猟小平津  恩を承けて借猟す 小平津

使気常遊中貴人  気を使いて常に遊ぶ 中貴人

一擲千金渾是膽  一擲千金 渾(す)べて是れ胆

家無四壁不知貧  家に四壁無きも 貧を知らず

 

格別の恩寵を蒙って、小平津あたりで猟をしたり、また日ごろ意気軒昂に宮中の貴人と付き合っている。

一度に千金を投げ出す豪胆さ、家には四方の壁も無い有様だが、貧乏だなんて思っても見ない。

 

王維 「少年行四首 其の一」

 

新豊美酒斗十千  新豊の美酒 斗十千

咸陽遊侠多少年  咸陽の遊侠 少年多し

相逢意気為君飲  相逢うて 意気 君が為に飲む

繋馬高楼垂柳邊  馬を繋ぐ高楼 垂柳の辺

 

新豊産の美酒、一斗一万銭。都には粋な若者がたくさんいる。

ばったり出会って意気投合、一緒に飲もうじゃないかと、馬を遊郭のしだれ柳に繋いでいる。

 

儲光羲 「長安道」

玄宗時代の進士。監察御史(官僚の不正を監視する:中級クラスの官僚でしょうか)になったが、安禄山の乱で捕らえられ、その朝廷に仕えたため、鎮定の後流罪となりその地で死んだ。

長安道も楽府題の一つで長安の都の栄華、貴公子の傲遊を詠う。

 

鳴鞭過酒肆  鞭を鳴らして酒肆を過り     鞭を鳴らして酒場に立ち寄り

袨服遊倡門  袨服(げんぷく) 倡門に遊ぶ  きらびやかな服を着て妓楼に遊ぶ

百萬一時盡  百萬 一時に尽くすも      百万の金を一時に使い果たしても

含情無片言  情を含んで 片言無し      思う女への情を心に秘め、一言も口には出さない。

 

井伏鱒二の「厄除け詩集」には

馬ニムチウチサカヤヲスギテ
綾ヤ錦デヂョロヤニアソブ
タッタイチヤニセンリャウステテ
カネヲツカッタ顏モセヌ

 

 

 

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