2005年4月

 

 三月末に、黄山にツアー旅行で行ってきます。大阪から杭州に飛んでそこからバスで入るようです。この旅では黄山は勿論ですが、杭州を見るのも楽しみです。わずか半日の観光しか組まれていないので、いずれ個人旅行ででもゆっくり滞在したいと思っています。それで、今月は予習のつもりで西湖を詠んだ詩を勉強してみました。ちょうどNHKのラジオ講座のテキストがこのあたりの特集なので参考にさせてもらいました。

 西湖の有る杭州は昔から繁栄した都市で、白居易、蘇軾が知事を勤めています。さらに南宋時代にはここが実質上の都となります。南宋は政治・軍事的には北の金に圧迫されて屈辱的な状態にありましたが、経済的には非常に繁栄していました。それがこの町を一層魅力的にしたのでしょう。

 

白居易 「春題湖上」 春 湖上に題す

 白居易は51歳のとき、地方官を希望して、杭州刺史(知事)となり三年間杭州に住みます。この間に西湖の泥を浚渫して、有名な白堤を築きます。

 

湖上春来似畫図   湖上 春来れば 画図に似たり

亂峯囲繞水平舗   乱峯囲繞して 水 平らかに舗く

松排山面千重翠   松は山面に排して 千重の翠

月點波心一顆珠   月は波心に点じて 一顆の珠

碧毯線頭抽早稲   碧毯(へきたん)の線頭は早稲を抽き

青羅裙帯展新蒲   青羅の裙帯は新蒲を展ぶ

未能抛得杭州去   未だ能わず 杭州を抛(なげう)ち得て去るを

一半勾留是此湖   一半勾留するは 是 此の湖

 

西湖のほとりは春になるとまるで絵の様だ。入り乱れた峰々が周りを取り囲み、其の中に湖水が平らに敷き詰めている。

松が山肌に立ち並んで幾重もの翠、月は湖水の真ん中に影を落として一粒の真珠。

碧の緞通の糸の端と見えるのは早稲が穂を出したところ、青いうすぎぬのスカート、帯は出たての蒲の穂。

なお杭州を投げ捨てて去ることが出来ないが、その理由の一半はこの西湖に引き止められてのこと。

 

 

蘇軾 「飲湖上初晴後雨 二首」 其の一

 其の二(20012月)はすでに紹介しました。白居易が白堤を築いてから270年後、55歳の蘇軾が杭州の知事としてやって来て、蘇堤を築きます。この詩と次の詩はその前、36歳で杭州通判(副知事のようなもの?)として赴任した時のものです。

 

朝曦迎客艶重岡   朝曦 客を迎えて 重岡艶やかに

晩雨留人入酔郷   晩雨 人を留めて 酔郷に入らしむ

此意自佳君不會   此意 自ら佳なるに 君会(え)せずや

一杯當属水仙王   一杯 当に水仙王に属(すす)むべし

(原注:湖上有水仙王廟)

 

朝日が客を迎えて打ち重なる山々が美しく、夕べの雨が人を引きとめて酔郷へといざなう。

此の境地のそれ自体の素晴らしさを君は悟らないのか。まずは一杯、湖の神にささげよう。

 

蘇軾 「望湖楼酔書」 望湖楼に酔書す

 

黒雲翻墨未遮山   黒雲 墨を翻して 未だ山を遮らず

白雨跳珠乱入船   白雨 珠を跳らせて 乱れて船に入る

巻地風来忽吹散   地を巻くの風来たって 忽ち吹いて散じ

望湖楼下水如天   望湖楼下 水 天の如し

 

 

林逋 「秋日西湖間泛」 秋日、西湖に間に泛ぶ

 林逋は20033月に梅の詩を紹介しました。彼は西湖の中にある孤山に庵を結んで、梅を妻とし鶴を子として隠棲し、二十年間杭州の町には足を踏み入れなかったというのですから、まあ小生のような俗人から見ると変人の部類に入るでしょうか。

 

水気并山影  水気 山影を并(あわ)せ         もやが山影を包み

蒼茫已作秋  蒼茫として 已に秋と作(な)る     あたりはすっかり秋景色

林深喜見寺  林深くして 寺を見るを喜び       嬉しいことに深い林の奥に寺が見えてきた

岸静惜移舟  岸静かにして 舟を移すを惜む    静かな岸辺の眺めに舟を移すのが惜しい

疎葦先寒折  疎葦 寒に先だって折れ        まばらな葦は寒さがやってくる前に折れ

残虹帯夕収  残虹 夕(ゆうひ)を帯びて収まる   残っていた虹も夕陽に消えた

吾廬在何処  吾が廬は 何処にか在る        吾が庵はどの辺りだろう

帰興起漁謳  帰興 漁謳(ぎょおう)起こる      さあ帰ろう、漁師の歌が聞こえてきた。

 

参考文献

 漢詩への誘い 歴史と風土(杭州の巻) 石川忠久 NHKテキスト

 蘇東坡詩選 小川環樹・山本和義 岩波文庫

 中国詩人選集 白居易 高木正一 岩波書店

 

 

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