2006年8月

 

八月というと、暦の上ではもう秋ということになりますが、なかなか暑さの真っ最中です。納涼ということで、詩を集めてみました。

 

夏日山中 李白

 

嬾揺白羽扇  白羽扇を揺(うご)かすに嬾(ものう)く      

裸袒青林中  裸袒す 青林の中

脱巾挂石壁  巾を脱ぎて 石壁に挂け

露頂灑松風  頂を露(あら)わにして 松風に灑(あら)わしむ

 

白鳥の羽の扇をあおいで涼をとるのは面倒なこと、青々とした林の中で肌脱ぎになる。

ずきんを脱いで石の壁に掛け、頭のてっぺんを露わにして松風にさらすのだ。

 

 

橋南納涼 陸游

 

曳杖来追柳外涼  杖を曳き 来り追う 柳外の涼

畫橋南畔倚胡牀  画橋の南畔 胡牀に倚る

月明船笛參差起  月明らかにして 船笛 参差として起り

風定池蓮自在香  風定りて 池蓮 自在に香る

半落星河知夜久  半ば星河落ちて 夜の久しきを知り

無窮草樹覚城荒  草樹窮り無くして 城の荒れたるを覚ゆ

碧筒莫惜頽然酔  碧筒 惜む莫かれ 頽然として酔うを

人事還随日出忙  人事 還た 日の出ずるに随いて忙しからん

 

杖をついて涼を求めて柳の生えている辺りまでやってきた。画橋の南のほとりで、折りたたみの椅子に腰を掛ける。

月が明るい中、船中で吹く笛の音が高く低く流れて来、風が収まって池の蓮も十分に香りを漂わせる。

天の川が半分落ちかかって、夜がすっかり更けたことを知り、果てしない草や木々の茂りが、町の荒れ果てたことを感じさせる。

蓮を巻いて作った杯で惜しみなく酒を汲んで酔っぱらおう。明日、日が昇ればまた人の世の雑事で忙しくなるのだから。

 

 

避暑山園 王世貞

 明末期の文人。李攀龍(唐詩選の選者)とともに復古主義を唱え、盛唐の詩を尊んだ。当時の文壇の指導者。

 

殘杯移傍水邊亭  残杯 移して傍う 水辺の亭

暑気衝人忽自醒  暑気 人を衝いて 忽ち自ら醒む

最喜樹頭風定後  最も喜ぶ 樹頭 風定りて後

半池零雨半池星  半池の零雨 半池の星

 

飲み残しの酒の入った杯を持って、水際のあずまやに席を移す。しかしここも暑さが厳しくたちまち酔いが醒める。

やれうれしや、木の梢の風が収まったかと思うと、池の面にぱらぱらと小雨が降り、星の影が水面に映って、涼しさを運んできた。                                                             

 

参考図書 漢詩歳時記 夏  黒川洋一他 編 同朋舎 

 

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