2007年01月
冬の夜の独り思い
年の初めですが、この年になるとさしたる感慨もなく、虚子の「去年今年つらぬく棒のようなもの」がしみじみと心にしみるようになりました。
王建 「冬夜感懐」
唐代の詩人。大暦十年(775)の進士ですから、杜甫などより一時代後の人でしょう。
晩年恩愛少 晩年 恩愛少なく
耳目静於僧 耳目 僧よりも静かなり
一夜不聞語 一夜 語を聞かず
空房惟有燈 空房 惟だ灯有り
氣嘘寒被濕 気嘘(は)きて 寒被湿り
霜入破窗凝 霜入りて 破窓凝る
斷得人闔磨@ 断じ得たり 人間(じんかん)の事
長如此亦能 長(とこしえ)に此(か)くの如きも亦能くせん
晩年になって恩愛の情は薄くなり、耳も眼も僧よりも静かである。
一晩中、言葉も聞かず、空っぽの部屋にはただ灯火があるばかり。
息を吐けば寒々とした布団は湿り、霜が破れた窓から入り込んで凍っている。
はっきりと解ったことだが、人の世の中のことは、生涯このような状態であってもそれはそれでやっていけるんものだ。
蘇軾 「書雙竹湛師房」 (双竹の湛師の房の書す)
蘇軾三十八歳のとき、杭州広厳寺での作。湛という僧に送った詩。
暮鼓朝鐘自撃撞 暮鼓 朝鐘 自ら撃撞(げきとう)し
閉門孤枕對殘ス 門を閉して 孤枕 残スに対す
白灰旋撥通紅火 白灰 旋(すなわ)ち撥(はっ)す 通紅の火
臥聽蕭蕭雪打窗 臥して聴く 蕭蕭として雪の窓を打つを
暮れの太鼓と朝の鐘は自分で打ち、また撞く。あとは門を閉ざして、独り寝の枕は薄暗い灯火とさし向かい。
火鉢の炭が白くなったら、とりあえず紅い火を掻き起こす。さらさらと雪が窓を打つ音を寝ながら聴いている。
潘閬 「宿靈隠寺」 (霊隠寺に宿る)
宋初の進士。役人になったり、罪を得て、杭州で薬屋をやったり、坊さんに化けて逃亡したりと、波瀾万丈の生涯を送ったようです。霊隠寺は杭州第一の名刹で、西湖の近くにあります。
繞寺千千萬萬峰 寺を繞る 千千万万の峰
満天風雪打杉松 満天の風雪 杉松(さんしょう)を打つ
地爐火煖黄昏睡 地炉 火煖(あたたか)くして 黄昏に睡る
更有何人似我慵 更に何人の我が慵(しょう)に似たる有らんや
寺を取り巻く数限りない峰々。外では満天の風雪が杉や松の木々を叩き付けている。
囲炉裏の火は暖かく、この傍らで日暮れ時から眠りこける。いったい、私のようなものぐさ者が他にいるだろうか。
参考図書
漢詩歳時記 冬 黒川洋一他編 同朋舎