2007年08月
静かな夏の一日というテーマで、集めてみました。
杜甫 「進艇」
以前、「江村」を紹介しましたが、これもまた同工異曲の詩です。蜀の桟道を越えての苦難の旅の後、やっと得た成都での穏やかな生活。しかし、やはり北の長安のことは気にかかる。微妙な心の襞が映し出されています。
南京久客耕南畝 南京の久客 南畝に耕す
北望傷神坐北窗 北望 傷神 北窗に坐す
晝引老妻乗小艇 昼は老妻を引きて 小艇に乗じ
晴看稚子浴清江 晴れには看る 稚子の清江に浴するを
倶飛蛺蝶元相遂 倶に飛ぶ蛺蝶(きょうちょう) 元と相遂い
竝蒂芙蓉本自雙 竝蒂(へいてい)の芙蓉 本と自ら双ぶ
茗飲蔗漿携所有 茗飲蔗漿(めいいんしょしょう) 有る所を携う
瓷罌無謝玉為缸 瓷罌(じおう)も玉を缸(こう)と為すに謝する無し
久しく南京(成都)に身を寄せて南の畑を耕す日々、北向きの窗に座って北の都の方を眺めては心を痛ませる。
昼には年老いた妻をつれて小舟に乗り、晴天下おさな子が清らかな河で水遊びするのをながめる。
連れだって飛ぶ蝶は追いつ追われつして戯れ、萼を並べて咲く蓮の花が対なのはもともとなのだ。
舟に持ってきたのはあり合わせの茶と砂糖水。入れ物は陶器の瓶であるが、玉で作られた美しい瓶に劣りはしない。
陸游 「小園」
陸游57歳の時の作。前年、官を免職になり故郷の紹興に帰っていたときの詩。
小園煙草接鄰家 小園の煙草(えんそう) 隣家に接し
桑柘陰陰一徑斜 桑柘(そうしゃ) 陰陰 一径斜めなり
臥讀陶詩未終巻 臥して陶詩を読みて 未だ巻を終えざるに
又乘微雨去鋤瓜 又微雨に乗じて去きて瓜を鋤(す)く
もやにけぶる小さな畑の緑は隣の家まで続き、生い茂った桑の木陰に小径が斜めに走っている。
寝ころんで陶淵明の詩集を読んでいたが、まだ一巻を読み終えないうちに、雨が小降りになったので瓜畑を鋤きに外に出る。
菅茶山 「即事」
茶山65歳夏の作。茶山は生涯のほとんどを神辺(
垂楊交影掩前楹 垂楊 影を交えて 前楹を掩う
下有鳴渠徹底清 下に鳴渠の徹底して清らかなる有り
童子倦来閑洗硯 童子 倦み来たって 閑に硯を洗う
奔流触手別成声 奔流 手に触れて 別に声を成す
垂れた柳の枝の影が交じり合って玄関を掩っている。その下には音を立てて流れる溝があり、その水は底がよく見えるほど清らかである。
子供たちは勉強に厭きてくると、ここに来て静かに硯を洗い始める。速い流れが手に触れると、別の音を立てる。
参考図書
漢詩歳時記 夏 黒川洋一他編 同朋舎
江戸詩人選集 「菅茶山・六如」 黒川洋一注 岩波書店