２００７年０９月

王士�メ@秋柳

　王士�メA漁洋山人は少年期を明末の戦乱期に過ごし、清代の初期に若くしてその詩名をうたわれた詩人である。２４歳の時、山東省済南において秋柳詩社を作り、そこで詠った「秋柳詩」四首はたちまち全国に広まり、一躍詩壇の寵児となった。

　彼は、葉を落とそうとしている秋柳を主題として、様々な典故をちりばめながら、時代の変遷、亡国の悲しみ、人生の哀歓、愛のはかなさを、甘美な憂愁のうちに詠うのである（高橋和巳解説）。この詩は新しい時代の詩として熱狂的に受け入れられ、清代の詩の流れを決定する。それはある意味現実を逃避するかのようであるが、異民族支配下の官僚詩人がどのように詩を作ればよいかを示し、それが受け入れられたのではあるまいか。

　彼は官僚としても非常に有能であったが、その仕事と詩とは全く遊離している。

　彼は７８歳まで死ぬまで、一貫して詩壇の指導者の地位にあり、その作詩法は「神韻説」として後世に知られる。（実は私には神韻説なるものがよく解りません。）

　今まで典故の多い詩は敬遠してきたのですが、清代の詩を勉強しようとすると王士�モﾍ避けて通れません。典故を詳しく紹介することが出来ませんのできわめておおざっぱな解説となってしまいました。

　

秋柳　四首のうち三首　

昔江南王子　感落葉以興悲　金城司馬　攀長條而隕涕　僕本恨人　性多感慨　寄情楊柳　同小雅之僕夫　致託悲秋　望湘皐之遠者　偶成四什　以示同人　為我和之　丁酉秋日　北渚亭書

昔、江南の王子、落葉に感じ以って悲しみを興し、金城の司馬は長條に攀（すが）りて涕（なみだ）を隕（おと）せり。　僕は本と恨人（こんじん）にして、性感慨多し。　情を楊柳に寄せ、小雅の僕夫に同じ、託を悲秋に致し、湘皐（しょうこう）の遠者を望む。　偶々四什を成し、以って同人に示す。　我が為に之に和せよ。　丁酉の秋日、北渚亭に書す。

　

其一

秋来何処最銷魂　　　秋来　何れの処か　最も銷魂なる

残照西風白下門　　　残照　西風　白下の門

他日差池春燕影　　　他日　差池（しち）たり　春燕の影

祇今憔悴晩煙痕　　　祇今（ただいま）　憔悴す　晩煙の痕

愁生陌上黄驄曲　　　愁は生ず　陌上　黄驄（こうそう）の曲

夢遠江南烏夜村　　　夢は遠し　江南　烏夜の村

莫聴臨風三弄笛　　　聴く莫れ　風に臨む　三弄の笛

玉関哀怨総難論　　　玉関　哀怨　総て論じ難し

秋が訪れた時、最も人の心に悲しみをもたらすのは何処であろうか？　それはこの文化華やかで幾つもの王朝の興亡を経てきた南京、残照の中、秋風が過ぎゆく白門（南京城の西門）の辺りであろう。

過ぎにし春の日には飛び交う燕の影を映していた楊柳が、今はやつれ果てた姿を夕靄の中に留めている。

路傍に斃れた愛馬のために唐の太宗が作らせたという黄?の曲に憂愁はかき立てられ、江南の村でカラスが啼き騒いだときに生まれた娘が後に東晋の皇后に立てられたという故事も遠い昔の夢となった。

晋の桓子野のような笛の名人にあっても、王徽之がしたように風のまにまに奏される三弄の曲を所望しない方がいい。王之渙の「涼州詞」に歌われたように玉門関の詩の哀愁の響きは聴くに堪えないものだから。

其二

娟娟涼露欲為霜　　　娟娟（けんけん）たる涼露　霜ならんと欲す

万縷千条払玉塘　　　万縷（ばんる）　千条　玉塘を払う

浦裏青荷中婦鏡　　　浦裏の青荷は中婦の鏡

江干黄竹女児箱　　　江干の黄竹は女児の箱

空憐板渚隋堤水　　　空しく憐れむ　板渚隋堤（はんしょずいてい）の水

不見瑯琊大道王　　　見ず　瑯琊（ろうや）の大道王

若過洛陽風景地　　　若し　洛陽風景の地を過らば

含情重問永豊坊　　　情を含んで重ねて問え　永豊坊

美しい秋の冷たい露が霜に変わろうとする季節、数え切れない柳の枝が麗しい堤を払う。

入り江の中の蓮の青い葉は女盛りの女性の姿をうつす鏡となり、水辺の黄色い竹は妙齢の娘の手文庫となるだろう。

かつて隋の煬帝は板渚の運河沿いに千株の柳を植えたと言うが、今はただむなしく変わらぬ水の流れをいとおしむのみ。また瑯?の騎士たる晋の桓温は若くして柳を植え、老いてはその枝を取って嘆息したと言うがそれも昔のこと。

昔、白楽天は家妓を柳にたとえて詠ったが、もし誰か洛陽の町永豊坊を訪れることがあったなら、今ひとたび、荒園のうちに頼るべき人のなかったその柳がどうなったか、思いを込めて尋ねてもらいたい。

其三

東風作絮糝春衣　　　東風　絮を作（し）て春衣に糝（さん）せしめしを

太息蕭条景物非　　　太息す　蕭条として景物の非なるに

扶茘宮中花事尽　　　扶茘宮中　花事は尽き

霊和殿裏昔人稀　　　霊和殿裏　昔人稀なり

相逢南雁皆愁侶　　　相い逢う　南雁は皆愁侶

好語西烏莫夜飛　　　好し　西烏に語（つ）げよ　夜に飛ぶ莫れと

往日風流問枚叔　　　往日の風流　枚叔に問う

梁園回首素心違 　　　梁園　回首すれば素心違う

かつて南京の町には暖かい東風が柳絮をとばせて春の上衣に点々と着けたものだった。しかし、今は蕭条として景物が昔に異なることに深いため息をつく。

国威を象徴して、異域の珍しい草木を集めた扶茘宮の花々の消息も絶え、素晴らしく枝の永い柳が植えてあった霊和殿にも昔の知己の姿は稀である。

顔を合わせる南の雁は揺落する秋の柳の愁いの友。敗戦の悲しみに啼く西のカラスに告げなさい、「夜中には飛ぶな、傷つくから」と。

宮中で柳の賦を作った昔の風流はどうであったかを枚乗（漢の時代の文人）にたずねてみよう。梁の国の庭園であったところをかえりみるが、やはり、全ては不本意。

参考図書

　中国詩人選集二集　王士�メ@高橋和巳注　岩波書店 　

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