2008年03月

春雨

二十四節季のうち、雨水(2月19日:雪が雨に変わる)、穀雨(4月20日:穀物を潤す雨が降る)と春には2つも雨に関する節季があります。東アジアでは、春の情景には雨がピッタリのようです。このテーマの詩としては、すでに陸游の「臨安春雨初霽」(2003.6)や広瀬旭荘の「春雨到筆庵」(2005.3)などを紹介しております。

 

杜甫 「春夜喜雨」

 

好雨知時節  好雨 時節を知り

当春乃発生  春に当って 乃ち発生す

随風潜入夜  風に随いて 潜かに夜に入り  

潤物細無声  物を潤して 細やかにして声無し

野径雲倶黒  野径 雲は倶に黒く

江船火独明  江船 火は独り明らかなり

暁看紅湿処  暁に紅の湿れる処を看れば

花重錦官城  花は錦官城に重からん

 

好い雨は降るべき時節を心得ていて、春にはちゃんとその営みを始めた。

雨は風の間に間に密かに夜に紛れ込み、細やかに万物を潤して音も立てない。

野の小径の上では雲と雨はともに黒々としており、江に宿る船では明かりが一つ灯っている。

夜が明けて遙かに紅色に湿っている辺りを見やれば、それは錦官城(成都の別称)に花が雨に濡れながら咲き乱れている姿だろう。

 

秦観 「春日」

 秦観については、200710月に紹介しました。

 

一夕軽雷落万絲   一夕 軽雷 万絲を落し

霽光浮瓦碧参差   霽光 瓦に浮かんで 碧参差たり

有情芍葯含春涙   有情の芍葯 春涙を含み

無力薔薇臥暁枝   無力の薔薇 暁枝を臥す

 

ある日の夕方、軽い雷鳴が響き数限りない糸のような驟雨が降ってきた。やがて晴れ上がると日が差して、濡れた瓦が様々な緑色に光っている。

芍薬の花はいかにも情けあるかのごとく、春の涙のような水滴をつけ、バラは明け方には伸ばしていた枝を雨に打たれて、力なく垂れている。

 

 

王士メ@「秦淮雑詩」

 

年来腸断秣陵舟   年来腸断す 秣陵の舟

夢繞秦淮水上楼   夢は繞る 秦淮水上の楼

十日雨絲風片裏   十日 雨絲 風片の裏

濃春煙景似残秋   濃春の煙景 残秋に似たり

 

数年来、腸も絶えなんばかりに憧れてきた秣陵(南京の古名)の船遊び。夢は秦淮河畔に並ぶ酒楼をかけめぐっていた。

しかし、ここにやって来てみると、連日細かい雨が風の間に間に降り続いている。春たけなわの靄の立ちこめる景色は晩秋にも似て寂しさに満ちている。

 

参考図書

 杜甫詩選 黒川洋一編 岩波文庫

 漢詩歳時記 春 黒川洋一他編 同朋舎

 

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