2008年07月
毎日鬱陶しい日が続いています。それで今回は「雨」をテーマにしました。雨に対してもそれぞれの立場で見方が異なってきます。
杜甫 「梅雨」
南京犀浦道 南京 犀浦の道
四月熟黄梅 四月 黄梅熟す
湛湛長江去 湛湛として長江去り
冥冥細雨来 冥冥として細雨来る
茅茨疎易湿 茅茨 疎にして湿(うるお)い易く
雲霧密難開 雲霧 密にして開き難し
竟日蛟竜喜 竟日 蛟竜喜び
盤渦与岸廻 盤渦 岸と廻る
私の住んでいる南京(成都)犀浦県の道では、四月になると梅の実が熟する。
その頃、長江は水を満々と湛えて流れ去り、暗い空から細雨が降ってくる。
家の茅葺屋根はまばらで雨で湿っぽくなり、雲や霧が濃く立ちこめて開かない。
一日中、喜んでいるのは水の中の蛟竜だけで、水面の渦巻きが岸に沿ってぐるぐる廻っている。
雍裕之 「農家望晴」
四川出身の中唐の詩人ですが、生没年不詳。度々受験したが進士にはなれず、各地を放浪したと伝えられています。
嘗聞秦地西風雨 嘗て聞く 秦地 西風の雨
為何西風早晩回 為何(なんすれ)ぞ 西風 早晩に回る
白髪老農如鶴立 白髪の老農 鶴の如く立ち
麦場高処望雲開 麦場 高き処 雲の開くを望む
昔からこの秦の地では西風が雨を運んでくると云われている。それにしても、どうしてこんなに早く西風がやって来たのか。
白髪の老いた農民が鶴のように立ち尽くして、麦畑の高いところで雲が開くのを待っている。
この詩は麦の刈り入れを前にして、晴を望んでいる農民の心を読んだものでしょう。
柏木如亭 「吉原詞 其九」
如亭の吉原詞については其二を2001.11に紹介しております。
霖天幾日僅留郎 霖天 幾日 僅かに郎を留む
占尽鴛鴦被底香 占め尽す 鴛鴦被底の香
小玉不知人苦別 小玉は知らず 人の別れに苦しむを
簾前故挂掃晴嬢 簾前 故(ことさ)らに挂く 掃晴嬢
長雨が幾日も続いて、お陰でいとしい人が居続けてくれる。オシドリ模様の布団の中でずっと二人きり。
かむろの小玉ったら、この人との別れがどんなに辛いか分ってないのかしら。簾の前にわざわざてるてる坊主を掛けるなんて。
参考図書
杜詩 第四冊 鈴木虎雄訳注 岩波書店
全唐詩精華分類鑑賞集成 潘仲華編集 河海大学出版社
詩本草 揖斐高校注 岩波文庫