2008年12月

冬の旅

 

孟浩然 赴京途中逢雪(京に赴く途中にして雪に逢う)

 孟浩然は盛唐の詩人で、王維と並んで「王孟」といわれ山水田園を詠う詩人の第一人者と見なされています。ずっと故郷の襄陽(湖北省)で自適の生活を送っていましたが、40歳のとき、進士の試験を受けるため上京します。その時の詩がこれです。

 

迢遞秦京道  迢遞(ちょうてい)たり 秦京の道

蒼茫歳暮天  蒼茫たり 歳暮の天

窮陰連晦朔  窮陰 晦朔(かいさく)に連なり

積雪遍山川  積雪 山川に遍し

落雁迷沙渚  落雁 沙渚に迷い

飢烏譟野田  飢烏 野田に譟(さわ)ぐ

客愁空佇立  客愁 空しく佇立するに

不見有人煙  人煙有るを見ず

都、長安への道は遙かに続き、年の暮れの空は蒼く果てしない。

陰気な天候が月の初めより終わりまで続いており、積雪は山川に満ち満ちている。

舞い降りる雁も砂の岸辺に迷い、飢えたカラスが野の畑で騒いでいる。

旅の愁いになすすべもなくたたずめば、どこにも人家の炊事の煙は見えない。

 

 

孟浩然 南帰阻雪

 「南陽北阻雪」と題されていることもある。前詩の翌年、試験に落第して、失意のままに帰郷する時の詩と考えられています。

 

我行滞宛許  我行は宛許に滞(とどこお)り

日夕望京豫  日夕 京豫を望む

曠野莽茫茫  曠野 莽(もう)として茫茫たり

郷山在何処  郷山 何処にか在る

孤煙村際起  孤煙 村際に起り

帰雁天辺去  帰雁 天辺に去る

積雪覆平皋  積雪 平皋(へいこう)を覆い

饑鷹捉寒兎  饑鷹(きよう) 寒兎を捉う

少年弄文墨  少年 文墨を弄し

属意在章句  属意 章句に在り

十上恥還家  十上 家に還るを恥じ

裴回守帰路  裴回して 帰路を守る

 

私の故郷へ帰る旅は宛丘・許昌の辺りでゆきなやみ、日に夕にいつまでも南陽(京豫)の町が見えている。

荒野は遠く広々としており、ふるさとの山はどの辺りか分らぬ。

一筋の煙が村はずれに起こり、北へ帰る雁は天の果てに消え去る。

降り積もった雪は湿原を覆い、飢えた鷹はこごえた兎を捉える。

少年の頃から文章や詩を楽しみ、また一生懸命学問に励んできた。

度々の上書も受け入れられず、家に帰るのを恥じるのみである。行きつ戻りつして家に帰れずにいるのだ。

 

晁端友 宿西門外  (西門外に宿す)

 宋代の詩人ですが、生没年不詳。蘇軾と交友があり、子供の晁補之は蘇門四学士(蘇軾の弟子)の一人として知られています。この詩は「宿済州西門外旅館」とも題されています。

 

寒林残日欲棲烏  寒林 残日 棲まんと欲するの烏

壁裏青灯乍有無  壁裏の青灯 乍ち有無

小雨愔愔人仮寐  小雨愔愔として 人は仮寐し

臥聴疲馬齕残芻  臥して聴く 疲馬の残芻(ざんすう)を齕(か)むを

 

日が沈もうとしている寒々として林にはカラスがねぐらに帰ろうとしている。宿の壁に掛けられた青白い灯火は時に明るくなったり消えそうになったりする。

外では小雨がひっそりと降るなか、衣も解かずにまどろみ、旅に疲れた馬がいつまでも残り物のまぐさを食べるのを聴いている。

 

参考図書

 漢詩歳時記 冬 黒川洋一他編 同朋舎

 唐代山水田園詩伝 銭文輝著 吉林人民出版社

 宋詩選注 銭鍾書著 東洋文庫

 

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