1999年7月
うっとうしい日が続きました。梅雨時の詩2首と夏の詩1首紹介いたします。
良寛
解り易い詩で、説明の要はありませんが、昔は歳を取り易かったと言っても、五十有余年といえば、われわれの歳ではありませんか。良寛さんの枯淡に比べれば、われわれは40代の感じで、まだまだ生臭いですね。
回首五十有余年 こうべをめぐらせば、ごじゅうゆうよねん
人間是非一夢中 じんかんのぜひ、いちむのなか
山房五月黄梅雨 さんぼう、ごがつ、こうばいのあめ
半夜蕭々灑虚窓 はんやしょうしょうとして、きょそうにそそぐ
趙師秀 「約客」
南宋の詩人ですが、良く知りません。ただ、前2句の表現が面白いのと、碁敵にすっぽかされた様子が面白いので紹介します。
黄梅時節家家雨 黄梅の時節 家家の雨
青草池塘處處蛙 青草 池塘 處處の蛙
有約不來過夜半 約有れども来らず 夜半を過ぐ
閑敲碁子落燈花 閑に碁子を敲いて 灯花を落とす
結句:退屈して碁石をパチンとおくと、その拍子に灯心の先の燃え滓がポトリと落ちた。
蘇軾(東坡) 「病中遊祖塔院」
宋、いや中国最高の文人で、文学、芸術、思想、人としての生きざままで、後の人の理想とされています。東坡肉なんて、料理にまで名を残しています。新旧党の争いの中で、政治家としては順調ではなく、最後は海南島まで流されますが、逆境にあっても、ユーモアを失わず自適の生活を送り、文人としての境地を高めています。この詩からも、それは窺えると思います。
紫李黄瓜村路香 紫李 黄瓜 村路 香ばし
烏紗白葛道衣涼 烏紗 白葛 道衣 涼し
閉門野寺松陰転 門を閉す野寺は 松陰に転じ
欹枕風軒客夢長 枕を風軒に欹(そばだ)てて 客夢 長し
因病得閑殊不悪 病に因って閑を得たるは 殊に悪しからず
安心是薬更無方 安心 是れ薬なり 更に方無なし
道人不惜階前水 道人は階前水を惜まずして
借與匏樽自在嘗 匏樽(ほうそん)を借与して 自在に嘗めしむ
紫の李、黄色い瓜で村の道は香りに溢れ、黒い紗の冠、白い葛布の道衣が涼しい。門を閉ざした寺の松の木陰、風のよく通る窓辺に枕を斜めに一眠り。病気で暇が出来たのは何より嬉しい。安心こそ薬、その他には治療法はない。坊さんは庭先に湧き出る名水を惜しむことなく、柄杓と器を貸してくれて存分に飲ませてくれる。
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