1999年8月
梅雨が明け、快晴が続いています。さて、8月分は酒の詩。よく漢詩は、友情の詩であるといわれます。確かに、唐宋の詩には、恋愛の歌はあまり多くはありません。士大夫の口にすべきことではないというのでしょうか。韻文のくせに、男女の恋愛を歌わぬとは、中国人はホモか!と言われそうですが、実は、もう一つ「詞」という韻文形式があり、こちらでは恋愛がたっぷりと歌われています。
男同士で何をするかという事になると、これはもう第一に酒という事になり、酒の出てくる詩は枚挙にいとまがありません。
まだ8月にはなっていませんが、来週休暇を取って、東北サイクリング(田沢湖−十和田−白神山地−竜飛岬)に出かけますので、早めに送ります。
王翰「涼州詞」
古来、絶句の絶唱といわれており、紹介の必要も無いと思いますが、小生の大好き
な詩であり、削るには忍びずというところです。唐詩選中には、涼州詞と題する詩が
いくつかあり、これらは西域のメロディーに乗せて唄われた様です。これには、葡萄
酒、夜光杯、琵琶と西域から伝わったものが折り込まれており、当時としては大変エ
キゾティックな感じだったと思われます。
葡萄美酒夜光杯 葡萄の美酒 夜光の杯
欲飲琵琶馬上催 飲まんと欲すれば 琵琶 馬上に催す
醉臥沙場君莫笑 酔うて沙場に臥す 君笑う莫(な)かれ
古來征戦幾人囘 古来 征戦 幾人か回(かえ)る
李白「山中與幽人對酌」
酒の詩といえば、杜甫の「飲中八仙歌」に一斗詩百編とか酒中仙と謳われた李白を外すわけにはいきません。小生、今まで李・杜は敬遠しており、「月下獨酌」など有名なものしか知りませんが、やはりこの自在な詠いぶりは、見事としかいいようがなく、詩想が次から次へと湧いてきているかのようです。
兩人對酌山花開 兩人 対酌して 山花開く
一盃一盃復一盃 一盃一盃復(また)一盃
我醉欲眠卿且去 我酔うて眠らんと欲す 卿(けい)且(しばら)く去れ
明朝有意抱琴來 明朝 意有らば 琴を抱いて來たれ
蘇軾 「被酒獨行偏至子雲威徽先覚四黎之舎」
蘇軾は、流謫地での生活の中にも楽しみを見出し、詩にしていますが、それが都に伝わり、権力を握っていた反対派を怒らせて、さらに遠くへ流されたという話が伝わっています。流謫時代の詩には、「毎日、茘支を三百ずつ食べる」などというのもあります。
当時の、海南島は相当な辺境の地でしょうから、蘇軾も大変だったと思いますが、こんな愉快な詩を残しています。
半醒半醉問諸黎 半ば醒め 半ば酔うて 諸黎(しょれい)を問えば
竹刺藤梢歩歩迷 竹刺(ちくし) 藤梢(とうしょう) 歩歩に迷う
但尋牛矢覓歸路 但(た)だ牛矢を尋ねて 帰路を覓(もと)めん
家在牛欄西復西 家は牛欄の西復西に在り
黎:海南島のロイ族の姓
牛矢:牛の糞
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