2010年1月 正月の詩
盧照隣 元日述懐
初唐の詩人。初唐の四傑の一人。
本人は志を得ない状態ではあるが、大唐帝国の春をおおらかに詠っています。
筮仕無中秩 筮仕するも中秩無く
帰耕有外臣 帰耕して外臣有り
人歌小歳酒 人は歌う 小歳の酒
花舞大唐春 花は舞う 大唐の春
草色迷三径 草色 三径を迷わせ
風光動四隣 風光 四隣を動かす
願得長如此 願くば 長えに此の如く
年年物候新 年年 物候の新たなるを得ん
仕官はしてみたものの人並の給料はもらえず、退官して田舎に帰ることにした。人々は年の暮れに開けた祝い酒に笑いさざめき、花々がこの大唐のあちこちに舞い散る。
浅緑色の草が隠棲する我が庭の小道を掩い、眩しい風光が辺り一面に揺れ動く。
願わくば、いつまでもこのように毎年みずみずしい風物の訪れを迎えたいものだ。
真山民 新春
南宋末の詩人であるが、その事跡は明らかでない。
余凍雪纔乾 余凍 雪 纔(わず)かに乾き
初晴日驟暄 初晴 日 驟(にわ)かに暄(あたた)かなり
人心新歳月 人心 新歳月
春意旧乾坤 春意 旧乾坤
煙碧柳回色 煙は碧にして 柳 色を回(かえ)し
焼青草返魂 焼は青くして 草 魂を返す
東風無厚薄 東風 厚薄無く
随例到衡門 例に随いて 衡門に到る
余寒が続いているが雪が少し融け、空が晴れ上がると日はにわかに暖かくなる。
人々の心は新年を迎えて浮き立ち、春の気配が変わらぬ天地に満ち満ちている。
柳も元の色に戻り緑色に煙っており、草も生き返ったように芽吹いて、野焼きの痕は青々としてきた。
春風は分け隔てなく、例年のように私の粗末な門前にも吹いて来てくれる。
市河寛斎 壬申元旦作
衰翁自廃賀新春 衰翁 自ら廃す 新春を賀するを
暁拉孫児賽土神 暁に孫児を拉(ひ)きて 土神に賽す
拝首非関求福禄 拝首するは 福禄を求むるに関するに非ず
要渠又作読書人 渠(かれ)が又読書の人と作らんことを要(ねが)う
老いぼれ爺はもう新年の挨拶まわりを止めてしまい、朝早く孫を連れて土地の神様にお参りする。
参拝したのは別に幸福や金持ちになることを願ってのことではない、この孫が私と同じく学問で身を立てて欲しいと願ってのことである。
参考図書
漢詩歳時記 春 黒川洋一他編 同朋舎
日本漢詩人選集 市河寛斎 蔡毅、西岡淳著 研文出版