2010年3月 

劉廷芝 代悲白頭翁(白頭を悲しむ翁に代りて)

 今月は長いので一首のみの紹介です。この詩の中の一節「今年 花落ちて 顔色改まり、明年 花開くも 復た誰か在る」とか、「年年歳歳 花相似たり、歳歳年年 人同じからず」などは、あまりにも有名で知らない人はいないでしょう。

 作者の劉廷芝は、劉希夷とも呼ばれ、廷芝、希夷のどちらが名でどちらが字かは諸説有るようです。初唐の詩人です(651-679)。美男子で酒を好み、琵琶が上手だったとのことです。宋之問の婿となったが、「年年歳歳・・・」の対句が出来たとき、宋之問に譲れと云われたのを拒絶したため、怨まれて殺されたとの伝説があります。

 

洛陽城東桃李花  洛陽城東 桃李の花

飛来飛去落誰家  飛び来り 飛び去り 誰が家にか落つ

洛陽女児好顔色  洛陽の女児 顔色好し

行逢落花長嘆息  行くゆく落花に逢うて 長嘆息す

今年花落顔色改  今年 花落ちて 顔色改まり

明年花開復誰在  明年 花開くも 復た誰か在る

已見松柏摧為薪  已に見る 松柏の摧かれて薪と為るを

更聞桑田変成海  更に聞く 桑田の変じて海と成るを

古人無復洛城東  古人 復た洛城の東に無く

今人還対落花風  今人 還た対す 落花の風

年年歳歳花相似  年年歳歳 花相似たり

歳歳年年人不同  歳歳年年 人同じからず

寄言全盛紅顔子  言を寄す 全盛の紅顔子

応憐半死白頭翁  応に憐むべし 半死の白頭翁

此翁白頭真可憐  此の翁 白頭 真に憐れむ可し

伊昔紅顔美少年  伊れ昔 紅顔の美少年

公子王孫芳樹下  公子 王孫 芳樹の下

清歌妙舞落花前  清歌 妙舞 落花の前

光禄池台開錦繍  光禄の池台 錦繍を開き

将軍楼閣画神仙  将軍の楼閣 神仙を画く

一朝臥病無相識  一朝 病に臥して相識無く

三春行楽在誰辺  三春の行楽 誰が辺にか在る

宛転峨眉能幾時  宛転たる峨眉 能く幾時ぞ

須臾鶴髪乱如糸  須臾にして 鶴髪 乱れて糸の如し

但看古来歌舞地  但だ看る 古来 歌舞の地

惟有黄昏鳥雀悲  惟だ 黄昏 鳥雀の悲しむ有るのみ

 

内容はわかりやすいので、訳は省略します。

光禄池台:漢の光禄大夫、王根は皇后の一族で権勢を誇り、屋敷の中の池に台を築き華麗な建物を建てた。

将軍楼閣:後漢の梁冀は皇后の兄で、大将軍に任ぜられ、宏大な屋敷を建て、その壁に神仙を画かせた。

 

参考図書

 唐詩選 前野直彬注解 岩波文庫 

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