2010年4月 

春愁

 春は明るく、楽しい季節の筈ですが、春の愁いを詠った詩は多いですね。

 

李U 「清平楽」

 李Uについては、20002月に紹介しております。また、2004.04及び2005.05にも詞を載せています。

 

別来春半      別れてより 春は半ば

触目愁腸断     触目 愁腸断ゆ

砌下落梅如雪乱   砌下 落梅 雪の如く乱れ

払了一身還満    払い了(つく)せども 一身に還た満つ

 

雁来音信無憑    雁は来れども 音信 憑(よ)る無く

路遙帰夢難成    路遙かにして 帰夢 成り難し

離恨恰如春草    離恨 恰(あたか)も 春草の如く

更行更遠還生    更に行き 更に遠ざかり 還(な)お生ず

 

別れの時は過ぎ去り、今はもう春半ば、目に触れるもの全てに断腸の思いがかき立てられる。

石段の下、落梅は雪のように払えども払えども我が身にまとわりつく。

 

雁は今年も飛んできたが、故郷からの便りを届けてはくれない。故郷への道は遠く、夢の中でも帰り着くことは出来ない。

故郷を離れ行くこの恨みは、道端に生える春草のように、行くほどに、遠ざかるほどにますますしげりゆくのだ。

 

 

温庭筠 「長安春晩」

 

曲江春半日遅遅  曲江 春半ばにして 日は遅遅たり

正是王孫悵望時  正に是れ 王孫 悵望の時

杏花落尽不帰去  杏花 落ち尽すも 帰り去らず

江上東風吹柳糸  江上の東風 柳糸を吹く

 

曲江のあたりももう春は半ばを過ぎ、日ざしの移るのもゆっくりとしてきた。正にこの時こそ都の貴公子達が春の愁いを感じるとき。

杏の花が落ち尽しても帰ろうともしない。川のほとりには春風が柳の枝を吹いて通り過ぎるだけ。

 

 

高啓 「夜雨江館写懐」

 

漠漠春寒水繞村  漠漠たる春寒 水は村を繞る

有愁無酒不開門  愁有るも酒無し 門を開かず

青灯画角黄昏雨  青灯 画角 黄昏の雨

客共梅花併断魂  客は梅花と併(とも)に断魂

 

参考図書

 中国詩人選集 16 李U  村上哲見注 岩波書店

 漢詩名句辞典 鎌田正・米山寅太郎著 大修館書店                                      

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