2010年8月
昼寝
暑いですね。今年は梅雨もひどい雨でしたが、梅雨明けの暑さもまた一段です。
暑い期間、避暑地の別荘で過ごすことは望めない市井の我々にとって、最良の暑さしのぎは昼寝でしょう。風通しの良い木陰にハンモックを吊っての昼寝など最高です。
昔の中国では昼寝をしていた弟子を孔子がボロクソに叱って以来、あまりおおっぴらに出来る習慣ではないのかも知れませんが、暑いときはまた別、閑適の詩にはしばしば昼寝が出てきます。
柳宗元 夏中偶作
南州溽暑酔如酒 南州の溽暑 酔えること酒の如し
隠几熟眠開北牖 隠几 熟眠 北牖を開く
日午独覚無余声 日午 独り覚めて 余声無し
山童隔竹敲茶臼 山童 竹を隔てて茶臼を敲く
南方の暑さ(彼は人生の後半を湖南省で過ごした)はまた格別で、酒に酔っぱらったようだ。北側の窓を開け放して、机に寄りかかってぐっすり眠る。
昼過ぎ独り目覚めると、辺りはひっそりとしている。ただ竹藪の向うから、召使いの童子が茶臼を碾く声が聞こえて来るのみである。
陸游
夏日昼寝、夢遊一院、闃然無人、簾影満堂、惟燕蹹箏弦有声、覚而聞鉄鐸風響璆然、殆所夢也耶、因得絶句
(夏日 昼寝て、夢に一院に遊べり。闃然として人無く、簾影堂に満ち、惟燕の箏弦を蹹みて声有るのみ。覚めて鉄鐸の風に響きて璆然たるを聞く。殆らくは夢みし所なるか。因りて絶句を得たり。)
桐陰清潤雨余天 桐陰 清潤なり 雨余の天
檐鐸揺風破昼眠 檐鐸 風に揺れて 昼眠を破る
夢到画堂人不見 夢に画堂に到りて 人見えず
一双軽燕蹴箏弦 一双の軽燕 箏弦を蹴る
雨上がり、桐の木陰は清らかに潤っている。軒端の風鈴が風に揺れて私の昼寝の夢を破る。夢の中で私は立派な屋敷を訪れたが、そこに人影はなかった。ただ、一つがいのかろやかな燕が足で引掻く琴の音が響くのみであった。
杉岡暾桑 午睡
没年1822年、京都出身で美濃郡上藩の藩校の教授であった。
雀触簷鈴破黒甜 雀 簷鈴に触れて 黒甜(こくてん)を破る
枕頭書被圧青簾 枕頭の書は青簾に圧(お)さる
懵騰更欲尋前読 懵騰(ぼうとう) 更に前読を尋ねんと欲するも
残夢猶拖新夢粘 残夢 猶 新夢を拖(ひ)きて粘(てん)す
雀が軒端の風鈴に触れて黒甜(昼寝)を覚まさせる。枕元の本は青すだれにめくられていた。
ボーッとしてどこまで読んだのだったかとページをめくるが、先ほどの夢が夢の続きを見ようと私を誘う。
参考図書
中国の四季 漢詩歳時記 野口一雄著 講談社
漢詩歳時記 夏 黒川洋一他編 同朋舎
田園漢詩選 池澤一郎 農山漁村文化協会