2010年10月
薩都刺
元代の詩人。字は天錫。イスラム系の人らしい。官僚としては不遇で、晩年は景勝の地を巡り、試作に没頭した。
過広陵駅 広陵駅を過ぐ
秋風江上芙蓉老 秋風 江上 芙蓉老い
階下数株黄菊鮮 階下 数株 黄菊鮮やかなり
落葉正飛揚子渡 落葉 正に飛ぶ 揚子の渡
行人又上広陵舟 行人 又上る 広陵の舟
寒砧万戸月如水 寒砧 万戸 月水の如く
老雁一声霜満天 老雁 一声 霜天に満つ
自笑棲遅淮海客 自ら笑う 棲遅 淮海の客
十年心事一灯前 十年の心事 一灯の前
秋風に江のほとりの芙蓉(蓮)の花は枯れ始め、階段の下にある数株の黄菊は鮮やかである。
落葉がちょうど風に舞い飛ぶ揚子江の渡し、旅人はまた広陵(楊州)への船に乗り込む。
数知れぬ家々からはさむざむとした砧の音、月の光は水のように澄みわたり、老いた雁の一声、霜は天に満ち満ちる。
気儘な淮海の旅人が、自分の身の上を笑うと、灯火の前でこの十年の事が心に浮かびあがる。
過高郵射陽湖 雑詠九首 其二
高郵の射陽湖を過ぐ 雑詠九首 其の二
秋風吹白波 秋風 白波を吹き
秋雨鳴敗荷 秋雨 敗荷に鳴る
平湖三十里 平湖 三十里
過客感秋多 過客 秋に感ずること多し
秋風が白波を吹き、秋雨が枯れた蓮の葉に音を立てる。
この平らな湖は三十里にわたって広がり、旅人は秋の感傷に満ちる。
秋夜聞笛
何人吹笛秋風外 何人か笛を吹く 秋風の外
北固山前月色寒 北固山前 月色寒し
亦有江南未帰客 亦た有り 江南 未だ帰らざるの客
徘徊終夜倚欄干 徘徊して 終夜 欄干に倚る
誰か秋風の彼方で笛を吹いている。北固山の辺りの月は寒々と冴え渡っている。
ここ江江南に滞在して帰郷できぬ旅人は、終夜徘徊して欄干にもたれかかっている。
参考図書
中国の名詩鑑賞 9 元・明詩 福本雅一編 明治書院
薩雁門絶句詳解 声教社同人