2011年1月

柏木如亭の行く年来る年

 もう何度も紹介している柏木如亭の歳暮、新年です。

 

丙辰歳暮

飄零嚢罄不帰人  飄零 嚢は罄(つ)く 不帰の人

村僻年年寄此身  村僻 年年 此身を寄す

懶是猫哉長愛睡  懶は是猫かな 長く睡りを愛し

拙于僧矣慣居貧  僧よりも拙し 貧に居るに慣る

雪多得月精神倍  雪の多きは月を得て 精神倍(ま)し

林漸分梅光景新  林は漸く梅を分ち 光景新たなり

一飽徒垂無用手  一飽 徒(いたづ)らに垂る 無用の手

又逢三十五青春  又逢う 三十五の青春

 

うらぶれて財布の空になってしまった故郷へ帰れない私。辺鄙な村に毎年この身を寄せている。

懶惰なことは猫そっくりで朝寝が好き、坊主よりも生計が下手で貧乏暮らしが板に付いた。

しかし、雪景色は月が昇ると天地の生気(精神)が増したようであり、林の中から梅の花が浮き出したように見え景色は新鮮である。

ただ腹を満たすだけの生活、手は何もすることがなく垂れているばかり。年が明けると三十五歳の春を迎えるのだ。

 

如亭はこの年の瀬を北信濃か越後で迎えたようです。

 

 

乙丑元旦枕上口号  乙丑元旦 枕上に口号す

 

久客新還自北方   久客 新たに還るに 北方よりす

馬蹄夢裏尚追程   馬蹄 夢裏 尚お程を追う

覚来疑是投山店   覚め来りて 疑うらくは是 山店に投ずるかと

窓外蕭騒風雪声   窓外 蕭騒たり 風雪の声

 

乙丑(文化二年)の元旦、寝床で作った即興詩

長旅の末、やっと北の方(信州)から江戸に帰ってきたばかりだ。夢の中ではまだ馬に乗って旅路を辿っていたようだ。

覚めてみるとまだ山中の宿に泊っているかと疑われる。窓の外は吹雪の声が騒がしく聞こえるから。

 

前年の秋から信州を旅していた如亭は年末に江戸に帰っていた。この年、43歳となる。

 

参考図書

 遊人の抒情 柏木如亭 揖斐高著 岩波書店

 日本漢詩人選集8 柏木如亭 入谷仙介著 研文出版

 


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