２０１１年２月
陸游 村人との交友
晩年の陸游は放翁と号し、田舎暮らしに入ります。貧しかったようで、貧乏を詠った詩もあります。また、農村を廻って医者をやっていたようです。
東村 二首
其一
野人知我出門稀 野人 我が門を出ずることの稀なるを知り
男輟鉏耰女下機 男は鉏耰（しょゆう）を輟め 女は機（はた）より下る
掘得茈菇炊正熟 茈菇（しこ）掘り得て 炊（かし）ぎて正に熟せしめ
一杯苦勧護寒帰 一杯 苦（ねんごろ）に勧めて 寒に帰るを護る
此の地の農民は私がめったに外に出ないのを知っているので、久しぶりに外に出ると男は鋤（すき）の手を休め、女は機織りを止めて迎えてくれる。
そして慈姑を掘ってきて、ちょうどよく煮えたの出し、一杯の酒を勧めて寒い中帰るのを守ってくれる。
其二
野人喜我偶閑遊 野人 我の偶（たまたま）閑遊するを喜びて
取酒怱怱勧小留 酒を取りて 怱怱（そうそう）として 小留するを勧む
舎後携籃挑菜甲 舎後に籃を携えて 菜甲（さいこう）を挑（つ）み
門前喚擔買梨頭 門前に擔を喚びて 梨頭を買う
土地の農民は私が珍しく散歩するのを喜んで、いそいそと酒を出してちょっと寄っていってくださいと勧めてくれる。
家の後へカゴを持って新鮮な野菜を摘んで来、また門前を通りかかった荷を担いだ男から小さな梨を買ってくれた。
山村経行因施薬 五首 （山村を経行（へゆ）き 因りて薬を施す）
其二
耕傭蚕婦共欣然 耕傭（こうよう） 蚕婦（さんぷ） 共に欣然たり
得見先生定有年 先生を見ることを得たれば 定めて有年ならん
掃灑門庭払床几 門庭を掃灑（そうさい）して 床几を払い
瓦盆盛酒薦豚肩 瓦盆に酒を盛りて 豚肩を薦む
傭いの農婦や蚕を飼っている女はみんな嬉しそうに、「先生にお目にかかれたからは、今年はきっと豊年ですよ」という。
門や庭を掃き清め、水を撒いて、床几を清めて、素焼きのどんぶりに酒をいっぱいに入れて豚の肩肉を薦めてくれる。
山行図書
陸游詩選 一海知義編 岩波文庫