2011年8月

 

今月は「納涼」と題して、二首ご紹介します。

 

孟浩然 夏日南亭懐辛大 (夏日 南亭に辛大を懐う)

 孟浩然(689-740)といえば、「春眠暁を覚えず、・・・」で知らぬ人のない盛唐の詩人ですが、科挙に失敗し官職に就くことはありませんでした。諸国放浪の詩人ですが、都に出て王維らと親交を結んだこともありました。

 

山光忽西落  山光 忽ち 西に落ち

池月漸東上  池月 漸く 東に上る

散髪乗夕涼  散髪して 夕涼に乗じ

開軒臥閑敞  軒を開きて 閑敞に臥す

荷風送香気  荷風 香気を送り

竹露滴清響  竹露 清響に滴る

欲取鳴琴弾  鳴琴を取って弾ぜんと欲するも

恨無知音賞  知音の賞する無きを恨む

感此懐故人  此に感じて故人を懐い

終宵労夢想  終宵 労(はなは)だ夢想す

 

山の上の日の光は急速に西に沈み、池に浮ぶ月は東から徐々に昇ってくる。

冠も着けずザンバラ髪のまま夕方の涼しさの中、窓を開けて静かな広々とした場所に横になる。

蓮の中を通ってきた風がよい香りをもたらし、竹の葉の露が清らかな響きをたてて落ちる。

琴を取って奏でようと思うが、音楽を理解してくれる友人のいないことが恨めしい。

このことを思うにつけても友人の辛大君のことが懐かしく、一晩中彼のことを思うのだ。

 

 

游 橋南納涼

 

曳杖来追柳外涼  杖を曳きて来り追う 柳外の涼

画橋南畔倚胡床  画橋の南畔 胡床に倚る

月明船笛参差起  月明らかにして 船笛 参差として起り

風定池蓮自在香  風定まって 池蓮 自在に香る

半落星河知夜久  星河 半ば落ちて 夜の久しきを知り

無窮草樹覚城荒  草樹 窮まり無くして 城の荒るるを覚ゆ

碧筒莫惜頽然酔  碧筒 惜しむ莫れ 頽然として酔うを

人事還随日出忙  人事 還た日の出づるに随いて忙しからん

 

杖をついて涼を求めて柳の茂みの彼方までやって来て、綺麗な橋の南のたもとで折りたたみの椅子に腰を下ろす。

月は明るく船から笛の音が高く低く聞こえて来、風が収まって池の蓮が思う存分香りを漂わせている。

天の川が半ば沈んで夜が更けてきたことに気づき、果てしなく広がる草木に町の荒れていることを知らされる。

蓮の葉を巻いた筒に酒を入れて思う存分酒を飲んですっかり酔っぱらおう。明日、日が昇ればまた世の中の俗事で忙しくなるのだから。

 

参考図書

 全唐詩精華分類鑑賞集成 潘仲華編 河海大学出版社

 漢詩歳時記 黒川洋一他編 同朋舎

 

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