2011年9月 猫
唐代には、猫を題材にした詩は少ないでしょうが宋代に入って身のまわりのチョットした事柄が詩に詠まれるようになると、猫の詩もよく現れます。陸游などは二十首以上猫の詩があるとのことです。これらの詩を見ると、単に愛玩するというよりは鼠対策の目的の方が強かったようですが、狸奴、銜蝉のほか、陸游は雪児(シロ)、粉鼻(鼻ジロ)、小於兔(小トラ)などと呼んでいたそうですから、やはり可愛がられていたのでしょう。
梅堯臣 祭猫
自有五白猫 五白の猫を有(も)ちてより
鼠不侵我書 鼠 我が書を侵さず
今朝五白死 今朝 五白 死す
祭与飯与魚 祭りて 飯と魚を与う
送之于中河 之を中河に送る
呪爾非爾疎 爾を呪(じゅ)するは爾を疎にするに非ず
昔爾齧一鼠 昔 爾 一鼠を齧み
銜鳴遶庭除 銜み鳴きて庭除を遶る
欲使衆鼠驚 衆鼠をして驚しめんと欲す
意将清我廬 意は将って 我が廬を清めんとするなり
一従登舟来 一たび舟に登り来たりてより
舟中同屋居 舟中 屋を同くして居る
糗糧雖甚薄 糗糧(きゅうろう)甚だ薄しと雖ども
免食漏窃餘 漏窃の餘を食らうを免る
此実爾有勤 此れ実に爾の勤むる有ればなり
有勤勝雞猪 勤むる有ること雞猪に勝る
世人重駆駕 世人 駆駕を重じ
謂不如馬驢 馬驢に如かずと謂う
已矣莫復論 已矣(やんぬるかな) 復た論ずる莫かれ
為爾聊欷歔 爾の為に聊か欷歔(ききょ)せん
五白(白いまだら?)の猫を飼ってから、鼠が私の書物を囓らなくなった。
今朝、その五白が死んだ。それで、飯と魚を供えて葬った。
河の中程に流して(今、作者は舟で旅行中)、お祓いをしたが、これはお前を粗末にした訳ではない。
昔、お前は一匹の鼠を噛み殺し、銜えて鳴きながら庭を巡った。
鼠どもを驚かせて、私の庵を清めようとしているらしかった。
舟に乗っての旅でも、ずっと同じ部屋に住んでいた。
ほしいいは乏しかったけれども、鼠に小便をかけられたり食われたりしたものを食することは免れた。
これは本当にお前が頑張ってくれたおかげだ。その頑張りは鶏や豚よりずっと優れている。
人々は家畜に走らせたり引っ張らせたりすることを重んじて、馬や驢馬がましだと云う。
仕方がない、もう議論するのは止めよう。お前のために少しばかり涙を流す私だ。
黄庭堅 乞猫 猫を乞う
秋来鼠輩欺猫死 秋来 鼠輩 猫の死せるを欺(あなど)り
窺甕翻盆攪夜眠 甕を窺い 盆を翻して 夜眠を攪(みだ)す
聞道狸奴将数子 聞道(きくな)らく 狸奴 数子を将いると
買魚穿柳聘銜蝉 魚を買い 柳に穿ちて 銜蝉(かんせん)を聘せん
この秋、鼠どもが猫の死んだのをいいことに、水瓶を覗くやら盆をひっくり返すやらしておちおち眠ることも出来ない。
聞くところでは、お宅の猫さんが数匹子供を連れているとやら。魚を買って柳の小枝に刺して、猫ちゃんをお招きしよう。
銜蝉:猫の愛称
陸游 贈猫
裹塩迎得小狸奴 塩を裹(つつ)み 迎え得たり 小狸奴
尽護山房万巻書 尽く護る 山房 万巻の書
慙愧家貧策勲薄 慙愧す 家貧くして 勲に策(むく)ゆることの薄きを
寒無氈坐食無魚 寒に氈(せん)の坐する無く 食に魚無し
塩を包んで子猫を貰って来、書斎の万巻の本を守ることが出来た。
恥ずかしいことに、家が貧しくてその功績に十分酬いることが出来ない。この寒さに座る毛氈もなく、また食事に魚をつけてやることも出来ない。
参考書籍
中国詩人選集二集 梅堯臣 筧文生注 岩波書店
中国詩人選集二集 黄庭堅 荒井健注 岩波書店
陸游詩選 一海知義編 岩波文庫