2011年10月 詩癖の人 梅堯臣
梅堯臣の詩は、今までにも河豚、息子の頭のシラミ、猫の詩などを紹介していますが、宋代初めの詩人です。変わったものまで詩の題材にしていますが、それまで尾を引いていた晩唐の詩風を一新するのに貢献しました。
若い頃は低い役職で苦労したようですが、晩年は今の日本で言えば東大教授といったところまで行っていますからまあまあでしょうか。ただ、若いときから詩人としては認められていて、朝廷の高官と交遊していました。
詩癖
人間詩癖勝銭癖 人間 詩癖は銭癖に勝る
捜索肝脾過幾春 肝脾を捜索して 幾春か過ぐ
嚢槖無嫌貧似旧 嚢槖(のうたく) 貧の旧に似たるを嫌う無く
風騒有喜句多新 風騒 句の新しきこと多きを喜ぶ有り
但将苦意摩層宙 但だ 苦意将って層宙を摩さんとし
莫計終窮渉暮津 終に窮まりて暮津を渉るを計ること莫し
試看一生銅臭者 試みに看よ 一生 銅臭の者
羨他登第亦何頻 他の登第するを羨むこと 亦何ぞ頻りなるを
この世で私の詩に対する愛着は金銭を愛することよりもひどい。腹の中を探し回って何年が過ぎたことだろう。
財布がからっぽで貧乏なのは昔のままであることを厭うことはなく、詩文に一句でも多く新しいものがあるとそれで喜んでいるのだ。
ただ懸命に宇宙の上まで飛び上がろうと努力して、最後に行き詰まったまま人生の夕暮れの渡し場を渡ろうとも気に掛けないのだ。
まあ、見てみたまえ。一生銅(金銭)の臭いの染みついた奴らが、他人が科挙に及第してゆくのを頻りに羨ましがることを。
蚯蚓(きゅういん)
蚯蚓在泥穴 蚯蚓 泥穴に在り
出縮常似盈 出縮 常に盈つるに似たり
龍蟠亦以蟠 龍 蟠(わだか)まれば亦た以って蟠まり
龍鳴亦以鳴 龍 鳴けば亦た以って鳴く
自謂与龍比 自ら謂(おも)えらく龍と比すと
恨不頭角生 恨らくは頭角の生ぜざるを
螻蟈似相助 螻蟈(ろうかく)は相助くるに似て
草根無停声 草根 声を停むる無し
聒乱我不寐 聒乱(かつらん) 我寐(い)ねず
毎夕但欲明 毎夕 但明けんことを欲す
天地且容蓄 天地 且らくは容れ蓄う
憎悪唯人情 憎悪するは唯人の情なり
ミミズは泥の穴に住んでいる。頭を出したり引っ込めたりしているがいつも穴一杯になっているみたいだ。
龍がとぐろを巻けばこっちもとぐろを巻き、龍が鳴けばミミズも鳴く。
自分では龍と肩を並べて張り合っているつもりであるが、残念なことに頭に角が生えていない。
オケラが加勢しているようで、草の根もとで休む間もなく鳴いている。
騒がしくて眠ることも出来ない。毎晩早く夜が明けないかと願っている。
しかし、天地はそんなものでも受け入れているのだ。憎いと腹を立てるのは人間の勝手な感情に過ぎない。
どうも、当時はミミズはやかましく鳴くと思われていたみたいですね。
参考文献
中国詩人選集二集 梅堯臣 筧文生注 岩波書店