麦秋
今月は、陸游の律詩を紹介します。
村居、書触目 村居、目に触るるを書す
雨霽郊原刈麦忙 雨霽(は)れ 郊原 麦を刈ること忙しく
風清門巷曬絲香 風清く 門巷 糸を曬(さら)して香し
人饒笑語豊年楽 人は笑語饒(おおく) 豊年楽しく
吏省徴科化日長 吏は徴科を省いて 化日長し
枝上花空閑蝶翅 枝上 花空しくして 蝶翅閑かに
林間葚美滑鶯吭 林間 葚(くわのみ)美にして 鶯吭(おうこう)滑らかなり
飽知遊官無多味 飽くまで知んぬ 遊官の多味無きを
莫恨為農老故郷 恨む莫かれ 農と為りて 故郷に老ゆるを
雨が晴れると、村はずれの原では麦刈りに忙しく、風がさわやかで、家々の表では繭糸を日に晒しているが、その香りが漂ってくる。
人々には笑い声が満ちて豊かな稔りを楽しんでおり、お役人は税金を減らしてくれ、初夏のうららかな日は長い。
木々の枝は花は散ってしまったが、蝶がのんびりと舞っており、林の中では桑の実が甘く熟れて鶯が滑らかな歌声を聞かせている。
役人生活が味気ないものだとはいやというほど知り抜いた。こうやって農民となって故郷で老いてゆくことを恨むではないぞ。
参考図書
漢詩歳時記 夏 黒川洋一他編集 同朋舎