2013年6月
元好問も五十歳になってようやく放浪の旅を終え、家族を連れて故郷の落ち着きます。
初挈家還読書山雑詩 (初めて家を挈(たずさ)えて読書山に還る 雑詩)
其一
幷州一別三千里 幷州 一別 三千里
滄海横流二十年 滄海 横流 二十年
休道不蒙稽古力 道うを休めよ 稽古の力を蒙らずと
幾家児女得安全 幾家の児女か 安全を得たる
故郷の幷州を出てさまようこと三千里、戦乱の世に流されること二十年。
古典を学んだおかげを受けなかったなどというな。よそでは何軒の家の児女が生き残っていることか。
其三
眼中華屋記生存 眼中の華屋 生存を記するも
旧時無人可共論 旧時 人の共に論ずべき無し
老樹婆娑三百尺 老樹 婆娑(ばさ)たり 三百尺
青衫還見読書孫 青衫 還た読書の孫を見ん
かつての立派な屋敷とそこ住んでいた人たちがいるのは心の中、昔を共に語る人も今はいない。
ただ、残っている老樹が青々と茂って三百尺もの高さになるとき、青襟の服を着た学生となった孫がいることだろう。
其四
乞得田園自在身 乞い得たり 田園 自在の身
不成還更入紅塵 還た更に紅塵に入るを成さず
只愁六月河堤上 只だ愁う 六月 河堤の上
高柳青風睡殺人 高柳の青風 人を睡殺するを
ありがたいことに田舎でやっと自由の身となった。もう決して俗世間の塵にまみれるようには成るまい。
ただ心配なのは、六月の川堤の上で、高い柳の木を通り過ぎる涼風が私を眠り込ませてしまうことだ。
参考図書
中国詩人選集二集 元好問 小栗英一注 岩波書店