2013年8月 絶句竹外
 藤井竹外(1807-1866)は幕末の詩人で、絶句の名手として知られています。摂津高槻藩の武士で、若い頃は鉄砲の名手であったようです。
 詩文を頼山陽に学び、彼の死後は梁川星巌の指導を受けました。55歳で致仕してからは、京都に住んで文人墨客と交友の生活を送りました。また、酒が大変好きだったようです。
 代表作として、「芳野」(2000.4)がよく知られています。

花朝下澱江

桃花水暖送軽舟  桃花 水暖かにして 軽舟を送る
背指孤鴻欲没頭  背指す 孤鴻の没せんと欲する頭(ほとり)
雪白比良山一角  雪は白し 比良山の一角
春風猶未到江州  春風 猶お未だ江州に到らず

桃の花咲き、水暖かな川を小舟が下ってゆく。振り返ってみれば大鳥が降りて行く先に比良山が雪を白く被っている。近江の国にはまだ春風が行き渡ってはいないようだ。

澱江(淀川)から比良が見えるとすれば琵琶湖の流れ出しの瀬田あたりでしょうか。



清明散歩近隣

日入帰来日出耕  日入れば帰り来たり 日出でて耕す
不知佳節是清明  知らず 佳節 是れ清明なるを
家家閉戸無人在  家家 戸を閉じて 人の在る無し
桃李花間鶏犬声  桃李花間 鶏犬の声

日が沈めば家に帰り、日が出たら畑に出て耕す。今日が清明節のめでたい日だとも知らぬげだ。
家人は皆野良にでて戸は閉め切られている。桃や李の花の間から犬や鶏の鳴き声が聞こえるばかりだ。


暁眠

如水新涼生枕辺  水の如き新涼 枕辺に生じ
竹窓聞雨五更前  竹窓 雨を聞く 五更の前
幾年曽作江門客  幾年か 曽て江門の客と作り
十丈塵中欠穏眠  十丈塵中 穏眠を欠く

ひやりとした涼しさが枕元に漂う。窓辺には雨の音が聞こえる夜明け前。
何年もの間、江戸で勤務して、積もり重なる世俗の塵のなかでゆっくり寝る暇もない生活のせいか今も安眠できぬ。


泉州道中

喚取籃輿便換舟  籃輿を喚取して 便ち舟に換え
浪華南去是平疇  浪華 南に去れば 是れ平疇
西風吹白木綿国  西風 吹きて白くす 木綿国
一路穿花到紀州  一路 花を穿って 紀州に到る

大和川を舟で越え、駕籠を呼び止め乗り換える。浪華から南に来れば見渡す限りの平らな畑だ。
西風(秋風)が白々と吹き抜けるここは木綿の産地だ。その真っ白な木綿の花の中を道は紀州へと続いている。

参考図書
 新日本古典文学大系 64 竹外二十八字詩 岩波書店

 

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