夜雨を聞く
秋の夜雨といえば、まず李商隠の「夜雨寄北」(1999.11)を思い出しますが、今月は夜雨を聞いて昔を思い出すという詩を二首紹介します。
陸游 枕上聞急雨
枕上雨声如許奇 枕上の雨声 許(か)くの如く奇なり
残荷叢竹共催詩 残荷 叢竹 共に詩を催(うなが)す
喚回二十三年夢 喚び回す 二十三年の夢
燈火雲安駅裏時 燈火 雲安駅裏の時
枕もとに聞く雨の音がかくも興味をそそるとは。枯れた蓮や竹林を打つ雨音が私の詩情をかき立てる。
思い起こされるのは、もう二十三年も前の夢かとも思われる情景、灯火の下、雲安の宿駅でのあの時だ。
雲安:現在の四川省雲陽県。長江三峡下りの遊覧船が立ち寄る町、張飛廟がある。
柏木如亭 枕上聴雨
雨久茅簷百感生 雨久しく 茅簷 百感生ず
蕭疎枕上夜三更 蕭疎たる枕上 夜三更
独行曽作秋篷客 独行 曽作(な)る 秋篷の客
滴砕郷心是此声 郷心を滴砕せしは 是れ此の声
雨がいつまでも茅葺き屋根に打ちつけ、それを聞いていると無数の感慨がわき起こる。侘びしい独り寝、もう真夜中も過ぎてしまった。
思い起こされるのは、むかし、独りで秋苫船の乗って旅をしたときのこと。故郷を思う心を打ち砕いたのは、まさにこの雨音だったのだ。
参考文献
中国文学歳時記 秋 黒川洋一他編 同朋舎
日本漢詩人選集8 入谷仙介著 研文出版