農村 春の喜び

陸游 村居書喜  村居して喜を書す

紅橋梅市暁山横  紅橋の梅市 暁山横たわり
白塔樊江春水生  白塔の樊江 春水生ず
花気襲人知驟暖  花気 人を襲いて 驟(にわ)かに暖なるを知り
鵲声穿樹喜新晴  鵲声 樹を穿ちて 新たに晴るるを喜ぶ
坊場酒賤貧猶酔  坊場 酒賤(やす)くして 貧も猶お酔い
原野泥深老亦耕  原野 泥深くして 老も亦た耕す
最喜先期官賦足  最も喜ぶ 期に先んじて 官賦足り
経年無吏叩柴荊  経年 吏の柴荊を叩く無きを

朱塗りの橋が架かった梅市の村に明け方の山々が横たわり、白い塔のある樊江は春の水がみなぎっている。
花の香が突然漂ってきて急に暖かくなったことに気づき、カササギの声が木の間から聞こえて晴れ上がった天気を喜んでいるようだ。
町では酒が安くて貧しい人でも酔うことが出来、野良では泥が深くなって年寄りも耕作に励んでいる。
一番嬉しいのは期限よりも先に税を納めることが出来て、この数年役人が我が家の柴の戸を叩きにやってこないことだ。


館柳湾 暖風抽宿麦  暖風に宿麦を抽く
 
この詩人は2003.10以来何度か紹介しています。
青青満郊麦  青青たり 満郊の麦
膏沢見春功  膏沢 春功を見(あら)わす
正得三番雪  正に得たり 三番の雪
已含九穂風  已に含む 九穂の風
暖光抽漸漸  暖光 抽んずること漸漸
瑞色秀芃芃  瑞色 秀(ひい)ずること芃芃(ほうほう)
雉雊畻畦際  雉は雊(な)く 畻畦(とうけい)の際
人歌衢巷中  人は歌う 衢巷の中
則知老農屋  則ち知る 老農の屋
亦是祈年宮  亦た是れ 祈年の宮
願奉堯尊酒  願いて堯尊の酒を奉じ
長倶祝歳豊  長(つね)に倶に歳の豊かなるを祝さん

郊外には青々と一面の麦、艶々として春の恵みを受けた。
ちょうど三回の雪にも耐え、今は九つの穂を出させる風を受けている。
暖かい光の下で次第に茎が伸びてゆき、豊作の様子がはっきりしてきている。
キジが畦のうちで鳴き、人々は町の中で歌っている。
今頃はきっと老いた百姓さんの家や、春祭りの神社で
神様に酒を捧げて、みんな一緒になって豊年の御祝いをしていることだろう。

参考図書
 中国詩人選集二集 陸游 一海知義注 岩波書店
 江戸時代 田園漢詩選 池澤一郎 農山漁村文化協会



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