杜甫 「負薪行」 負薪行(ふしんこう)
 材料に困ったときは杜甫様にお願いと云うことで。杜甫が三峡に滞在していたときの詩です。一生をこういう状態で過ごすとは悲惨でやりきれないですね。私も三峡ダムが完成する前に蘷州(現在の奉節)を訪れましたが、小舟で小三峡の奥に入って行くと貧しい村の様子や、岩壁の昔の桟道など大変な生活だっただろうなと思われました。


蘷州処女髪半華  蘷州(きしゅう)の処女 髪半ば華(しろ)し
四十五十無夫家  四十五十 夫家(ふか)無し
更遭喪乱嫁不售  更に喪乱に遭いて 嫁售(う)れず
一生抱恨長咨嗟  一生 恨を抱いて 長(とこしえ)に咨嗟(しさ)す
土風坐男使女立  土風 男を坐さしめ 女をして立たしむ
男当門戸女出入  男は門戸に当り 女は出入す
十有八九負薪帰  十に八九 薪を負いて帰る有り
売薪得銭応供給  薪を売り銭を得て 供給に応ず
至老双鬢只垂頸  老に至るも 双鬢 只 頸に垂る
野花山葉銀釵竝  野花山葉 銀釵に竝(なら)ぶ
筋力登危集市門  筋力 危うきに登り 市門に集う
死生射利兼塩井  死生 利を射て 塩井を兼ぬ
面粧首飾雑啼痕  面粧首飾 啼痕を雑う
地褊衣寒困石根  地褊(ちへん)に衣寒くして 石根に困す
若道巫山女麤醜  若し巫山の女麤醜(そしゅう)なりと道(い)わば
何得北有昭君村  何ぞ北に昭君村有るを得んや

蘷州のオールドミスは髪が半分白くなり、四十五十になっても夫がいない。
そのうえ兵乱で嫁入り口はなく、一生恨みを抱いて嘆き暮らす。
この土地の風習として男は働かずに坐っており、女が働く。男は留守番をして女が出たり入ったりする。
女性の八九割はたきぎを背負って帰り、それを売って銭を得て生活の資とする。
年をとっても振り分け髪を首筋に垂らすだけで、野の花や木の葉を銀のかんざしと一緒に髪に挿している。
力を尽くして危ない場所に登り薪をとっては市場へ行って売り、また命がけで利益を得るために山塩の井戸で塩担ぎの仕事までする。
そのつらさに化粧や首飾りには涙のあとが混ざって見え、土地が狭いし、着物は寒いし、石ころだらけの土地に苦労でやつれ果てている。
もしこの三峡の巫山地方の女性が醜いというならば、どうしてこのすぐ北に昭君村(王昭君が生まれたという)が有るのだろうか(幸せに暮らせばみんな美人なのに)。

参考図書
 杜甫全詩集 鈴木虎雄訳 日本図書センター




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