豳風七月を詠う
先月、詩経豳風「七月」を紹介しましたが、後の詩人たちはこの詩のなかに古代の理想郷を見たようです。農村詩人でもあった南宋の陸游はしばしばこの詩を引用しているようですが、二つ見つけましたので紹介します。
日本でも菅茶山の詩を既に紹介しています(2008.05)。
村居即事
西成東作常無事 西成 東作 常に事無く
婦饁夫耕万里同 婦は饁(かれい)し 夫は耕す 万里同じ
但願清平好官府 但だ願う 清平にして官府好く
眼中歴歴見豳風 眼中 歴歴として 豳風(ひんぷう)を見んことを
春(東)の種まき、秋(西)の刈り入れはいつも何事もなく、嫁は弁当を届け、夫は農作業に精を出すのもどこでも同じだ。
ただ願うのは、天下太平で、お役所のお達しが穏やかで、目の前にありありと詩経豳風「七月」に歌われたような古代の平和な農村の情景を眺めることだ。
自述
古井無由浪 古井 由無くして浪だち
浮雲一掃空 浮雲 一掃して空なり
詩書修孔業 詩書 孔業を修め
場圃嗣豳風 場圃(じょうほ) 豳風(ひんぷう)を嗣ぐ
懼在饑寒外 懼れは饑寒(きかん)の外に在り
憂形寤寐中 憂いは寤寐(ごび)の中に形づくらる
吾年雖日逝 吾が年 日に逝くと雖も
猶冀有新功 猶お冀(ねが)う 新功の有らんことを
古井戸が風もないのに波立ち、空は浮き雲が一掃されて何もない。
私は今まで詩書、儒教の学問を修めてきた(政治に参画する能力はある)。農作業場や田畑は詩経豳風に歌われたように古代の穏やかで豊かな雰囲気を伝えている。
従って、飢えや寒さを懼れることはないのだが、世の行く末に対しては寝ても覚めても心にかかる。
私の年は日々無為の内に過ぎゆくが、それでもなお世のために何か新しい功績が挙げたいと願っている。
参考文献
眼中歴歴として豳風を見る 浅見洋二 懐徳 82号 懐徳堂記念会