2015年05月
幕末の大名詩人 山内容堂
先日、岩波文庫の「明治詩話」木下彪著を買い求め、ぼちぼちと目を通しています。
冒頭は大沼枕山の「東京詞三十首」を紹介しているが、あまり私の興は引かない。
それよりもその後で紹介している幕末の大名、山内容堂の詩が素晴らしいと思いました。「鯨海酔侯」と号し、酒を好んだ容堂らしい詩ですね。司馬遼太郎の小説などではあまりよくは書かれていませんが、詩人としては一流のものではないでしょうか。
墨水竹枝
水樓宴罷燭光微 水楼に宴罷(や)んで 燭光微かなり
一隊紅妝帯醉歸 一隊の紅粧 酔を帯びて帰る
繊手煩張蛇眼傘 繊手 張るを煩わす蛇眼傘
二州橋畔雨霏霏 二州橋畔 雨霏々たり
川端の酒楼、宴は果てて灯火も微かになった。一群の芸者たちは酔いを帯びて帰って行く。
その華奢な手が蛇の目傘を開く。両国橋のほとりは雨が霏々と降り出した。
蛇目傘は和習(中国では通用しない語)でしょうが、あえてそれを入れて絶句にするところなど並々ならぬ詩人ですね。
金薺玉膾満盤堆 金薺玉膾 盤に満ちて堆(うずたか)く
脆竹嬌絃侑酔来 脆竹嬌絃 酔を侑(すすめ)来る
何物黠児誇拇戦 何物の黠児(かつじ)か 拇戦を誇る
一呼呼底罰三杯 一呼呼底 罰三杯
盤の上にはご馳走が一杯。笛や三味線の音楽が酔いを進める。
ずる賢い太鼓持ちは拇戦(虫拳:ジャンケンの一種)が上手だ。あっという間に負けて罰杯を三杯も飲まされる。
紅幕珠簾楼又楼 紅幕珠簾 楼又楼
楼台此処小揚州 楼台 此の処 小揚州
球燈一点従南至 球燈一点 南従り至る
伊軋知他送妓舟 伊軋(いあつ) 知る他の 妓を送る舟
赤い幔幕や珠の簾の酒楼が並ぶ。ここは中国の揚州にも比するような花街だ。
丸いボンボリがポツンと南からやってくる。ギイギイという音がするところからあれは芸妓を送っている舟だと知れる。
参考図書
明治詩話 木下彪著 岩波文庫