2015年04月
村の子供たち
暑くなってきましたね。私も四国の山村で育ちましたが、春夏秋冬、学校が終わると外で走り回って遊んでいました。
陸游 観村童戲渓上 村童の渓上に戲るを観る
雨余渓水掠堤平 雨余の渓水 堤を掠(かす)めて平らかなり
閑看村童戯晩晴 閑に看る 村童の晩晴に戯るを
竹馬踉蹡衝淖去 竹馬 踉蹡(ろうしょう)として淖(とう)を衝いて去り
紙鳶跋扈挟風鳴 紙鳶 跋扈して 風を挟んで鳴る
三冬暫就儒生学 三冬 暫く儒生に就いて学び
千耦還従父老耕 千耦 還た父老に従いて耕す
識字粗堪供賦役 字を識ること 粗ぼ堪えたり 賦役に供するに
不須辛苦慕公卿 須いず 辛苦して 公卿を慕うを
雨上がりの谷川は水が堤が溢れそうに一杯になって平に流れ、夕暮れの晴れ間に子供たちが遊んでいるのをのんびりと眺めている。
竹馬の子供たちは勢いよくぬかるみを突っ走ってゆき、凧は大空をわがもの顔に風をはらんでうなっている。
子供たちも冬の間は儒学の先生について勉強しなければならず、また親爺たちのもとで並んで畝を耕さなければならぬ。
字を覚えるのはほぼ年貢の書面が読めればよく、苦労して出世を望む必要などはない。
陸游 農家 六首
其六
諸孫晩下学 諸孫 晩に学より下り
髻脱繞園行 髻は脱(と)け 園を繞りて行く
互笑蔵鉤拙 互に笑う 蔵鉤の拙きを
争言闘草贏 争いて言う 闘草の贏(か)ちたるを
爺厳責程課 爺(ちち)は厳しく程課を責め
翁愛哺飴餳 翁(じい)は愛して飴餳(いとう)を哺(ふく)ましむ
富貴寧期汝 富貴 寧(なん)ぞ汝に期せんや
他年且力畊 他年 且つは力畊せよ
夕方になると孫たちが塾から帰ってきて、ざんばら髪で庭を廻って遊ぶ。
互いに指輪隠しの下手なのを笑いあい、草合わせは自分が勝ったと言いつのっている。
親父は厳しく宿題やったかと責め、爺さんは優しく飴を含ませてくれる。
富や出世などをおまえたちに期待はしていない、将来しっかりと畑仕事が出来ればそれでよい。
菅茶山 夏日雑詩 十二首
其九
村童日日挟書来 村童 日日 書を挟みて来る
講席偏愁暑若煨 講席 偏(ひとえ)に愁う 暑の煨(わい)するが若(ごと)くなるを
帰路逢牛臥涼処 帰路 牛の涼処に臥するに逢いて
直将牧竪畳騎回 直ちに牧竪(ぼくじゅ)と畳騎して回る
村の子供たちが毎日書物を抱えてやって来るが、教室の中が蒸し焼きにされるように暑いのが心配だ。
しかし、帰り道に牛が涼しいところに寝そべっているのに出会うと、すぐに牛飼いの小僧と一緒に牛にまたがって帰って行く。
参考図書
陸游詩選 一海知義編 岩波文庫
江戸詩人選集 第四巻 黒川洋一注 岩波書店