2016年03月

眞山民
 眞山民というのは名前かどうかも判らないような詩人です。眞山民集という詩集が一巻残っているだけで、人物来歴は一切不明だが、南宋末期の人らしい。山民が号だとすると、隠者に近い生活を送っていたのかも知れない。その詩は自然を詠じて、平明です。ちょっと物足りない感じはしますが。

郊行
春暁南郊路  春暁 南郊の路
依依見耦耕  依依として耦耕を見る
和風平地発  和風 平地に発し
残月半山横  残月 半山に横たわる
古寺鐘催客  古寺 鐘 客を催し
前村犬吠行  前村 犬 行に吠ゆ
鶏啼星斗散  鶏啼いて 星斗散じ
漸漸八方明  漸漸として八方明かなり  

耦耕:二人並んで耕すこと


江頭春日
風煖旗亭煮酒香  風は煖(あたた)かに 旗亭 酒を煮て香しく
酔醒始悟是他郷  酔い醒めて始めて悟る 是れ他郷なりと
駕言行邁路千里  駕して言(ここ)に 行邁すること 路千里
豈不懐帰天一方  豈 帰るを懐わざらんや 天の一方
春事漸随鶯語老  春事は漸く鶯語の老ゆるに随い
離愁偏勝柳絲長  離愁は偏えに柳絲の長きに勝る
無聊莫向城南宿  無聊 城南に向いて宿る莫れ
淡月梨花正断腸  淡月 梨花 正に断腸


風は暖かく、酒屋には酒の香りが漂っている。酔いから醒めて初めてここが他郷だと思い出す。
車に乗って千里の道を進んできた。故郷とは反対の天の一隅でどうして帰りたいと思わないことがあろうか。
鶯の鳴き声が上手になるとともに春も尽きようとし、故郷を離れた愁いは柳の糸よりも長い。
何もすることがないからといって、この城南で留まることはやめよう。おぼろ月、梨の花を見ると正に断腸の思いだ。


春尽
幽鳥数声啼暁烟  幽鳥 数声 暁烟に啼く
杖藜未到白雲辺  杖藜 未だ到らず 白雲の辺
陰陰万緑又如許  陰陰たる 万緑 又許の如し
春在一枝紅杜鵑  春は一枝の紅杜鵑に在り

朝靄の漂うなか鳥の声が聞こえてくる。杖をついての散歩、白雲の辺りまでは辿り着かない。
見たとおり、まわりは万緑で掩われている。その中に一枝の赤いツツジの花が春の名残を告げている。

参考図書
 眞山民全集 藤森治幸編著 吟詠普及会