2016年05月

杭州西湖
 西湖の風光は古来より大変有名ですが、白居易がその先鞭をつけたようです。西湖を詠った詩と云えば、やはり白居易と蘇軾に代表されるでしょう。この二人は杭州の知事時代に西湖の浚渫工事を行い、それが白堤、蘇堤として残っています。
 以下の二つの詩はどちらも比喩を駆使した叙景の詩で、私などは苦手な部類の詩なのですが、叙景の詩はこうあるべきなのでしょうか。
 西湖は私も一度訪れたことがあります。美しいことは美しいのですが、それほどのものかなという気もします。現在は世界中を飛び回って山奥の神秘的な湖を見ることが出来ますので、当時と比べるのは気の毒でしょうか。

白居易 春題湖上

 白居易は51才から三年間、杭州刺史(知事)として過ごします。この詩にも見られるように此の地が大変気に入っていたようです。

湖上春来似画図  湖上 春来らば 画図に似たり
乱峰囲繞水平舗  乱峰 囲繞(いじょう)して 水 平らに舗(し)く
松排山面千重翠  松は山面に排す 千重の翠
月点波心一顆珠  月は波心に点ず 一顆の珠
碧毯線頭抽早稲  碧毯(へきたん)の線頭 早稲を抽(ひ)き
青羅裾帯展新蒲  青羅の裾帯 新蒲を展(の)ぶ
未能抛得杭州去  未だ杭州を抛げ得て去る能わず
一半勾留是此湖  一半の勾留は是れ此の湖

西湖に春がやってきたら、全く絵のようである。入り乱れる峰々が周りを取り囲んで水が平に拡がっている。
松は山の面に並んで幾重にも重なった翠をなしている。月は湖心に映えて一粒の真珠のよう。
みどりの毛織物の糸筋は早稲の穂先であり、青い薄絹の帯は蒲の新芽が拡がったもの。
私が杭州を捨てて立ち去れないのは、半ばはこの西湖が引き留めているからだ。


蘇軾 六月二十七日望湖楼酔書五絶

 蘇軾は杭州に二度赴任している。はじめは36才から三年間杭州通判(副知事)として、二度目は54才から三年、知事として。この詩は一回目の赴任の時に作られた詩である。

其一
黒雲翻墨未遮山  黒雲 墨を翻えすも 未だ山を遮らず
白雨跳珠乱入船  白雨 珠を跳(おど)らせて 乱れて船に入る
巻地風来忽吹散  地を巻き風来って 忽ち吹いて散ず
望湖楼下水如天  望湖楼下 水 天の如し

参考図書
 白楽天詩選 川合康三訳注 岩波文庫
 蘇東坡詩選 小川環樹・山本和義選訳 岩波文庫