2016年09月

今月は「秋の訪れ」と題して。

李賀 「七月」

星依雲渚冷  星 雲渚に依りて冷ややかに
露滴盤中円  露 盤中に滴りて円かなり
好花生木末  好花 木末に生じ
衰蕙愁空園  衰蕙 空園に愁う
夜天如玉砌  夜天 玉砌の如く
池葉極青銭  池葉 青銭を極む
僅厭舞衫薄  僅に厭う 舞衫の薄きを
稍知花簟寒  稍や知る 花簟の寒きを
暁風何払払  暁風 何ぞ払払たる
北斗光闌干  北斗 光 闌干たり

星は天の川のあたりに冷え冷えと光り、露は承露盤に滴って円やかだ。
麗しい花が梢に生じ、衰えた香り草が空しくなった花園に寂しそうである。
夜空は玉の敷石を敷き詰めたようで、池の蓮の葉は青い銭がぎっしりと浮かんでいるよう。舞姫は衣の薄いのが気になるようになり、客は花むしろの冷たさを知る季節となった。
暁の風の絶え間なく吹くことよ、北斗七星が明るい光を放っている。


高啓 「涼夜」

一声遠笛数声砧  一声の遠笛 数声の砧
月満江城夜正深  月は江城に満ちて 夜正に深し
占拠胡床愛涼夜  胡床を占拠して 涼夜を愛す
空階移尽桂花陰  空階 移り尽す 桂花の陰


遠くから一節の笛の音が聞こえて来、近くであちこちから砧を打つ音がする。月の光が川沿いの町に満ちて夜はしんしんと更けわたる。
えんがわを独り占めして涼しいこの夜を愛おしむ。モクセイの陰が人気のないきざはしを移りすぎていった。


菅原道真 「秋」

 道真が讃岐守として讃岐に赴任している時に作られた詩。この地方官としての赴任が左遷なのか抜擢なのか議論があるようですが、従五位上で上国の讃岐守(普通は四位)への任命は形としては抜擢にあたるようです。しかし、この詩ではあまり嬉しそうには見えませんが、詩では愁いを含ませるのが常套手段ですから本心は分かりませんね。

涯分浮沈更問誰  涯分の浮沈 更に誰にか問わん
秋来暗倍客居悲  秋来 暗(ほの)かに倍す 客居の悲しみ
老松窓下風涼処  老松 窓下 風の涼しき処
疎竹籬頭月落時  疎竹 籬頭 月の落つる時
不解弾琴兼飲酒  解せず 琴を弾じ兼ねて酒を飲むを
唯堪讃仏且吟詩  唯だ堪えたり 仏を讃じ且つ詩を吟ずるに
夜深山路樵歌罷  夜深くして 山路 樵歌罷み
殊恨隣鶏報暁遅  殊に恨む 隣鶏の暁を報ずることの遅きを


この身の浮き沈みを誰のせいにしようか。秋になって知らぬ間に旅住まいの悲しみが増してくる。
老松の傍の窓のもと風が涼しく吹いてくるところで、疎らな竹の籬のほとりで月が落ちる時分
私には中国の詩人の好んだような琴を弾いたり酒を飲んだりする趣が理解出来ない。このような夜にはただお経をあげ詩を吟ずるだけだ。
夜が更けてきて山道には樵の歌も止んでしまい、恨めしいのは隣の鶏が夜明けを告げるのが遅いことだ。

参考図書
 中国文学歳時記 秋 黒川洋一他編 同朋舎
 漢詩名句辞典 鎌田正、米山寅太郎著 大修館書店