2016年11月
老残
 今月は自身の年老いた姿を写した趙孟頫の律詩を紹介します。ここまで老残の姿を赤裸々に詠った詩もちょっと無いのでは。

趙孟頫 「老態」
 趙孟頫は宋の皇族の一員ですが、南宋が亡んだ後、元朝に仕えました。それでその節操を非難されるのですが、文人として非常に高く評価されています。詩文書画、どれをとっても超一流でした。

老態年来日日添  老態 年来 日日に添い
黒花飛眼雪生髯  黒花 眼に飛び 雪 髯に生ず
扶衰毎藉斉眉杖  衰を扶けて 毎に藉(よ)る 眉に斉しき杖
食肉先尋剔歯櫼  肉を食いては 先ず尋ぬ 歯を剔る櫼(せん)
右臂拘攣巾不裹  右臂 拘攣(こうれん) 巾もて裹(つつ)まず
中腸惨戚涙常淹  中腸 惨戚として 涙 常に淹(ひた)す
移床独就南栄坐  床を移して 独り就く 南栄の坐
畏冷思親愛日簷  冷を畏れて 親しまんと思う 日を愛ずる簷


年来、老衰のありさまが日日目立ってき、眼には黒い星が飛び回り、髯も白くなってきた。老いた足を助けるためにいつも眉の高さまであるような長い杖にすがり、肉を食べた時は真っ先に歯をほじくる爪楊枝を求める。
右の肘が引きつっても包帯を巻くようなこともせず、中腸(こころ)が悲しみにくれていつも涙が流れ出るのだ。
ベッドを移動して南向きの場所を独り占めにして、寒さを恐れて日当たりのよい軒下にへばり付いているのだ。

参考図書
 中国名詩集 松浦友久著 朝日文庫