2017年01月
阿波ゆかりの詩人 三木半仙
 
近頃、「南海遺珠」三沢国太郎編 という本を見る機会がありました。江戸時代から明治初期の阿波ゆかりの漢詩人のアンソロジーです。パラパラと見ただけなのですが、三木半仙の詩が目に付きました。三木半仙は事績がよく判っていないようですが、阿波藩の藩医だったようです。元文五年(1740)-天保十年(1827)

舟下芳野川

一帯長江百里餘  一帯の長江 百里の余
買舟渡口捨籃輿  舟を渡口に買いて 籃輿を捨つ
溶溶春漲駛於箭  溶溶たる春漲 箭よりも駛(はや)し
知是東風消雪初  知んぬ 是れ 東風 雪を消すの初めと

見渡す限りの大きな川が百里あまりも続いている。渡し場で船を雇って駕籠から下りる。
ゆったりとした春の水が漲った流れは矢よりも速い。これは春風による雪解けの始まりだと判る。
芳野川は四国三郎の吉野川でしょう。

文政七甲申夏予罹病終焉将近卒賦小詩示児孫(文政七甲申の夏 予病に罹りて終焉将に近し。卒に小詩を賦して児孫に示す)

身世栄枯七秩餘  身世の栄枯 七秩の余
一朝罹病半仙居  一朝 病に罹る 半仙の居
浮世大夢今初覺  浮世の大夢 今初めて覚む
何処雲山是我廬  何処の雲山か 是れ我が廬ならん


冬夜憶故園諸友

城鼓鼕鼕欲暁天  城鼓 鼕鼕(とうとう) 天 暁ならんと欲す
孤懐不睡坐灯前  孤懐 睡らず 灯前に坐す
霜毛自覚添愁裏  霜毛 自ら覚ゆ 愁裏に添うるを
馬歯誰憐加客辺  馬歯 誰か憐まん 客辺に加うるを
䔥寺尋花迷浅草  䔥寺 花を尋ねて 浅草に迷い
扁舟戴月酔深川  扁舟 月を戴せて 深川に酔う
交遊多少恍如夢  交遊 多少 恍として夢の如し
夜雨同床又幾年  夜雨 同床 又幾年


お城の太鼓が鳴り響いて暁を告げる。一人物思いに浸って灯火の前で眠らずにいる。
頭には愁いのうちにまた白いものが増えてきたのを感じ、老いぼれが旅先で年を取っていくのを誰が憐れんでくれようか。
仏寺に花をながめようと出かけて浅草辺りをさまよい歩き、小舟を出して月を眺めながら深川で酒を飲む。
故郷での多くの交遊は今はボーとして夢のようだ。友と一緒に雨を聞きながら眠るのは何年先のことやら。

参考図書
 南海遺珠 三沢国太郎編